通算盗塁阻止率4割6分2厘。捕手古田の極意はどこにあったのか。しのぎを削り合った谷繁元信氏(47=日刊スポーツ評論家)が、その技術を語った。

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若いころの谷繁は、盗塁をいかに刺すかより、自分の肩の良さをアピールしようという意識の方が強かった。「だから、捕ってから少し時間をかけて強く投げる形だった。でも古田さんは捕ってから(球を)放すまでが速い。俺もああいう風にしたいと思って、見て分析して、自分の技術を磨いてきた」という。

谷繁は、古田の特徴を3点挙げた。

<1>「捕る」ではなく「受ける」 構えた位置から球を捕りにいく(=迎えにいく)と、ミットは体から離れていく。そうすると、ミットから投げる右手までの距離も必然的に長くなる。「自分がミットを引き戻す速さと球速を比べたら、どちらが速いか。当然球速の方が速いわけだから、なるべく体の近くで“球を受けて”送球に備えていた」。

<2>「つかむ」ではなく「渡す」 送球動作に入る際、捕球した球を右手でつかみにいく(=捕りにいく)のではなく、ミットを右手の位置まで持っていく。「球を渡しながら、両手で円を描くイメージで投げている。直線的な動きでは力みが出たり、無駄な動きが生じやすい。円の動きをすることで、力がボールにしっかり伝わるようにもなる」。

<3>右足を引かずに出す ステップのポイントは、左膝と右足の動き。「古田さんは、球を捕る寸前に左膝が内側に入り、捕球と同時に右足を少しだけ前に出して、投げることができる。普通は左膝を内側に入れて捕ろうとすると、右足を後ろに引いてしまう捕手が多い。そうすると下半身の力が逃げてしまい、手だけのスローイングになって弱い球になったり、正確な送球ができない」。

古田は<1>、<2>でコンマ1秒を削り、<3>で強く速いボールを、野手が捕りやすいベースの上へ正確に送ることを可能にしていた。

谷繁にとって、古田は「ずっと意識させられたキャッチャー」だった。盗塁阻止率4割を超えても、古田がその上にいたシーズンもあった。守備だけでなく、打線も主軸。「攻守の両方でメイン。捕手をやっていた者からすれば、本当にすごい。俺から言わせるとスーパーキャッチャー。学ぶものをたくさん持たれていた」。名捕手は名捕手を知る。(敬称略=つづく)【佐竹実】