15日にウエスタン・リーグが開幕した。現役時代「ミスタータイガース」として活躍し、昨オフ、2軍監督に就任した掛布雅之氏が、若虎たちをどのように変えていくのか。当コラムでは同監督を直撃取材した。春季安芸キャンプからスタートした掛布阪神の「超変革」を3回連載で追う。

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 「よく聞いてくれ。今シーズンが終わるとき、この中から何人かの選手がやめていく。でも、かりに整理されたとしても、タイガースのユニホームを着て良かった。と思える1年にしないとダメだ。無駄な時間をつくるな。これ以上できない、というところまで練習してやめてほしい」

 キャンプ初日。選手を前にした掛布監督の訓示だ。表情は穏やかで、悔いを残す選手が出ないための温かいアドバイスだが、口調は熱っぽい。言葉のひと言、ひと言の中身を考えるとかなり厳しい内容だ。久々に着た縦縞のユニホーム。気持ちはぐっと引き締まっている。そこに、憧れのプロ野球選手になったときの自分がいた。思い浮かぶのは、桧(ひのき)舞台での活躍を目指してガムシャラに野球に取り組んだこと。さらに上を見据え、常に向上心を抱いて、自分から進んで積極的に練習したあの日。特打あり、個人ノックあり。かなり厳しいシゴキにも一度たりとも音をあげたことがない。鍛えに、鍛え抜いて球界のスターにのぼり詰めた男。いま、前回明記したように背番号31をつぐ選手を待ちわびている。

 だから、自分が歩いてきた道が蘇ってくる。「ファームの選手であっても、いい意味で野球の怖さを感じてもらいたい。自分の野球に自分で責任を持ってほしい。この世界、楽しいだけでは継続できません。怖さがあるから一生懸命練習して継続できるんですよ」(掛布監督)己の現状に満足するな。妥協するなということだ。そういえば選手時代、それも球界のスターに君臨していたころ、こんなことをつぶやいていたことがある。「まさか」と思える話だ。「開幕して何試合かホームランが出ないときとか、ヒットが出ないときなんか“オレ、今年はもうホームランは打てないんじゃないか”とか、ヒットも同じで“打てるのかなあ”と思ってしまう」と-。要するに野球の怖さを感じるときで、その思いを払拭するために、自分から進んで練習に打ち込んだのが掛布流。若手よ、前向きになれ。何事にも積極的に挑戦することだ。

 その練習も、やらされる練習と、自分から進んで頑張る練習では、心、技、体の進歩にかなりの差がつく。その差は「やる気」の問題だが、選手時代、こんな掛布に遭遇したこともある。確かハワイキャンプだったと記憶する。夜中である。ホテル内広場の片隅で、一人黙々とバットを振っている選手がいた。左バッターである。やはり掛布だった。周辺の研ぎ澄まされた空気。緊張感。その雰囲気たるや近寄りがたい。現ソフトバンク・王会長のごとく一本足でジーッと立ち1点を見詰める。ものすごい集中力で周囲は殺気立っている。そして、ひとスイング毎に「ハッ」と気合十分の声が発せられる。これが身をもって練習を実行する掛布の姿だ。また遠征時、野球道具は荷物車が宿舎まで運んでくれる昨今、ただ1人素振り用のバットを持参して遠征していた。プロ野球界のスターたる一面を垣間見たし、本物のプロを見せてくれた人。

 -今季のファームは

 掛布2軍監督 育てるのと、勝つことは共通しています。当然ファームも勝ちにこだわっていきます。勝つ試合から覚える野球があれば、負けゲームで大いに反省することもある中で選手は育っていきます。ファームも目標は優勝ですが、僕の理想は1軍が日本一になって。2軍は最下位なんですよ。1軍は同じ戦力で1シーズンを戦うのは結構むずかしい。でも、そのときにファームが予備軍を持っていれば1軍の歯車は止まらないはずです。目標はあくまで金本監督の胴上げです。ファームの戦力は1軍に全部吸い上げられてボロボロになっても、それは2軍にとっては喜ばしいことですよ。

 チームが一丸となっている発言。今シーズンの采配がいまから楽しみだが、早くも驚きの「超変革」指導があった。3月20日鳴尾浜球場でのオリックス3回戦。抑えの石崎が9回、フルカウントから投じたストレートを、ブランコにバックスクリーン越えの超特大決勝ホーマーを浴びると「あれでいいんです。あれがプロの勝負ですよ」と絶賛していた。掛布流の発想、本来なら「1発だけは避ける場面」のアドバイスだろうが、さすが大物。その選手の素材にもよるが、より大きく育つアドバイスだけに石崎がどう受け止めたか。今後各選手が指導されたときのひと言、ひと言の意図をしっかり受け止めることができるなら、ひ弱なチームから頼もしいチームに超変革するだろう。

【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)