日本外国特派員協会での会見で、記者の質問に答えるZOZO社長の前沢氏(撮影・狩俣裕三)
日本外国特派員協会での会見で、記者の質問に答えるZOZO社長の前沢氏(撮影・狩俣裕三)

「ZOZO」を運営する前沢社長が7月にツイッターでプロ野球球団の運営に興味を示して以来、久々に日本外国特派員協会に呼ばれ、会見でその思いを明かした。

球団経営について聞かれた同氏は「今日の時点では言えませんが、動いていますし、言える時が来たら言います」とだけ語った。

同社長は2016年にロッテの本拠地の命名権を取得し「ZOZOマリンスタジアム」と名付けており、球界と全くの無関係というわけでもない。球団運営の内容はロッテの買収劇か、ロッテにかかわらず既存の球団を買収するのか、それとも新球団を作るのか、前沢社長の真意について世間の注目が集まっていた。

いろんな意見があって当然だと思うが、個人的には球団が増えることについては賛成だ。ただ、前沢社長には、より具体性のあるプランを示してほしい。「ZOZOマリンスタジアム」の関わりからか、ロッテ球団が身売りするのではないかと報道陣の目が向いたが、ロッテは身売りについて7月の段階で完全否定している。

しっかりした青写真が見えているのなら、球団運営への熱い思いを語っても納得いくのだが、発言はペナント最中に発信された。

リーグ戦は残りわずかとなったが、シーズン真っ盛りの7月発言以降、ロッテ選手は取材の中で「球団運営」についての意見や思っていることをメディアから取材されただろう。

選手はリーグ戦ではチームの勝利のため、来季の契約を勝ち取るため成績を上げようと必死でプレーしていた。

グラウンド外での話題が盛り上がると現場が惑わされてしまう。そのため、リーグ戦最中に発言するなら早めにプランを示しほしいと個人的には思っていた。

ライブドアの社長時代に球団買収を目指した経験がある堀江貴文氏はツイッターで、前沢氏の球団経営意欲が出た際に「16球団のキーマンを前沢さんに紹介しときました」とツイートしていた。

実際問題、考えると私もセ・パそれぞれ2球団増の計4球団増やして、やるなら16球団制がいいのかなと思っていた。

仮にセリーグに2球団増えて8球団、パリーグが現状の6球団なら交流戦で、試合のない球団が2球団出てしまうなど試合消化が厳しくなるなど理由はもろもろあり、16球団なら、うまく回りそうな気がする。

さて、16球団に向けて、買収となれば、既存の球団で、球団経営が厳しく、売りたいという球団があってこそ初めてスタートする話。存在すればいいが、ないなら新球団設立で球界参入を目指すことになる。

プロ野球の新規参入へは、11月30日までに実行委員会とオーナー会議で承認を得ることが必須で、参入が了承されれば預かり保証金25億円、野球振興協力金4億円、加入手数料1億円の約30億円が必要となる。前沢氏の総資産は3000億円を超えると言われており、「ZOZO」の時価総額も1兆円以上となれば、参入資金での不安はない。

実現するために実際に懸念されることをざっと挙げてみる。1球団支配下登録選手70人×4球団=280人を用意できるか。1軍の本拠地、2軍の球場、選手寮、雨天練習場など設備をどうするか。選手の移動につながるが、本拠地に据えた都市の交通インフラの整備をどうするかなどがある。

現在のプロ野球では「移動ゲーム」と呼ばれるものがある。デーゲームを終えて敵地、本拠地への移動、午前中に移動して夜ナイターなどがそれだ。交通インフラが厳しい場所に本拠地を構えると選手は肉体的にも精神的にもつらい。

一般生活に例えれば、旅行に行き、朝、目的地に着いたはいいが、ホテルでアーリーチェックインができず、トランクケースを持ったまま右往左往して時間を潰すといった経験をしてくたびれたことはないだろうか。

選手も同様で、移動では待ち時間が少ないほうが良く、最終便でもいいから自宅に戻ったほうがホテルよりリラックスできる。

メジャーのように球団専用のジェット機があればいいが、現在、選手の移動は民間の飛行機で一般客と一緒に利用しており、沖縄に本拠地を持ったとすれば、札幌との直行便はなく、移動ゲームの開催は厳しくなる。積極的に交通網の整備に取り組んでくれる自治体が見つかるか。

東京は晴れでも沖縄が台風で移動できないケースもあるだろう。愛媛にホームを構えれば、広島まではバスで約3時間かかるなど、交通のインフラを整備できなければ、現在の143試合を130試合くらいに減らすことも検討せざるを得ない。

既存の12球団のロケーションを見ると、新幹線、飛行機の便が非常に良く整った場所に陣取っている。さらにテレビ、ラジオ、新聞などローカルネットを持っている強みもある。球団の本拠地エリアでは絶えず試合中継があり、地元球団としてファンとの一体感を作りやすい。もちろん現在ではDAZN(ダ・ゾーン)などで中継すれば問題ないのかも知れないが…。

16球団制もさることながら今後、球団を増やしていく方向性なら、脱落球団がでないようにお金の枠組みを変える手も必要かも知れない。メジャーでは収益分配制度があり、全チームに課税して全チームに分配するものなど収入の多い球団から得たお金が、貧乏球団に分配されるような仕組みがある。日本では1企業が球団を支えているため、こういった方式は厳しいかと思うが、簡単に言えば保険会社の原点である「相互扶助」的な要素がないと球団を増やした後、存続させていくことは厳しいのではないかと思ったりもする。

球団を持つメリットは何と言っても企業知名度アップが大きい。NHKは大相撲の懸賞旗の企業名をアップで映さないが、プロ野球の球団名ならチーム名(企業名)を読み上げてくれる。前沢社長の影響力もあるだろうが、ツイッターでつぶやいたことが無料で新聞の1面で展開してくれる社もある。広告費を考えればプロ野球のオーナー会社のメリットは大きい。

いろいろ考えてみたが、なかなか「プロ野球球団を持ちたい」と大きな夢を語る人もそうはいない。ぜひ夢実現のプロセスを今後も見守っていきたい。

◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

日本外国特派員協会での会見で、自身の月旅行計画のロケット模型とヘルメットを持ち、笑顔を見せるZOZO社長の前沢氏(撮影・狩俣裕三)
日本外国特派員協会での会見で、自身の月旅行計画のロケット模型とヘルメットを持ち、笑顔を見せるZOZO社長の前沢氏(撮影・狩俣裕三)