その時、テレビ画面に映った岡田彰布の顔。確かに笑っていた(ように見えた)。
7月26日の巨人戦。3点を先制した後、大竹が快調に巨人打線を封じていく。それが6回表、激変した。大竹が崩れた。コントロールが乱れ、甘いコースに投げてしまう。それを巨人打線はコンパクトに打ち返し、ホームランなしで5点。阪神は一気に逆転された。
それでも岡田はベンチの端で笑っていた。さあ、ここからよ…と楽しんでいるように見えた。5点を奪われた時点で、頭は切り替わっていた。次に何を考え、何をすべきか。岡田得意の将棋ではないが、頭には何手も先の戦略が浮かんでいた。
「監督の仕事って、何? そら、いろいろあるわ。チームを管理し、強いチームに育てる。育成もあるし…。最終的には勝つチーム、勝てるチームにすることよ。それには試合の中で、いかに1点を奪い、いかに1点を防ぐか。そこをオレは突き詰めたい」。この岡田の考えは今も昔も変わらない。
話を巨人戦に戻す。2点を追った6回裏。岡田は何を考えたか。まず1点。そこにこだわった。1死でノイジーがヒットで出る。打席に坂本。2点差だし、打っていくしかない展開で岡田が下したのは送りバント。これが失敗すると、次はエンドランに出た。ノイジーが走り、坂本はゴロを転がした。何としてでも走者を二塁に進める。これが追いかけ、追い越すための、まず1点の起点になる。
そこから代打攻勢に出て、考え通りの1点を奪った。計算通りに進む。岡田は次を考える。リリーフ陣なら絶対に負けない。7回以降、1点も与えぬリリーフがいるのだから、あとは逆転するだけ。その時も、巨人の投手陣のことがインプットされていた。
自信に満ちた顔で、采配する岡田と、顔にシワを作り、明らかに不満気な空気を出す原辰徳。これはあまりに見事なコントラストだった。
岡田は原のことが好きだ。現役時代を含め、原の悪いことを聞いたことがない。学生時代から日本を背負ってきた盟友。1歳違いの2人は仲がよかった。原の監督としての能力について、評論家時代に「アイツはチームを勝たせることのできる監督。それは他の監督にないものを持っている。経験値もすごいしな」と語っていた。
2008年の屈辱のV逸。因縁の相手と再び、相まみえることになった2023年。岡田は原をリスペクトしつつ、現実はのんでかかっている。それが凝縮された7月26日。残りのイニングと相手の投手陣、そしてこちらのスタッフを考えれば、絶対に逆転できる。絶対に勝てる。岡田が描いた通りの展開に、ゲーム後、「今日はおもしろかったな」と明かしたとか。こういう駆け引きのつまったゲーム、戦いが岡田は好きで仕方ない。
一方で原辰徳の胸の内を考える。6回以降、原は自らマウンドに歩み、投手交代を告げた。先発投手が退いたあと、リリーフに6投手を送ったが、監督が6回もマウンドでゲキを飛ばすも、誰ひとり応えることができなかった。その度、ベンチの最前列で唇をゆがめ、拳を握り、原は悔しさを静かに出すだけだった。
阪神がいて巨人。巨人があって阪神。いまも我々世代は永遠のライバルとして、巨人の存在を重く受け止めている。さらに、いつもさわやかな原辰徳は、これから先もさわやかでいてもらいたい…という願いがある。だが、ここまで冷酷な結末となったいま、今シーズンに限れば、巨人は阪神のライバル、強敵ではない。そんな印象を改めて強くした。【内匠宏幸】 (敬称略)




