<イースタンリーグ:日本ハム4-3DeNA>◇7日◇鎌ケ谷
2軍戦から印象に残る選手、プレーをリポートする田村藤夫氏(62)は、日本ハムの大卒2年目捕手・古川裕大(23=久留米商-上武大)の細かい動きを観察し、そこに潜む危うさを指摘する。
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今回のリポートは、読む人によってはあら探しと思われる可能性は理解している。それでも、よくよく古川裕には向き合ってもらいたいテーマだと思い、厳しく指摘することにした。
初回、DeNAの攻撃は四球、ヒット、ヒットで無死満塁だった。しかし、私の集中力が足りないばかりに、ここでの古川裕の動きをしっかり追うことができなかった。当然、捕手ならやっているであろう作業をしてないと感じたのは、5回表1死一、三塁だった。
投手のボールを受け、捕手は投手へ返球する。その時、古川裕は捕球から返球まで、三塁走者に顔を向けて視線を送らなかった。そんなはずはないと思い、何度も注意して見たが、私がいたバックネット裏からでは、頭が三塁への動きは確認できなかった。
もしかすると、横目で三塁走者を見ていたかもしれない。その可能性は否定できない。ただ、横目で見ても、それは三塁走者を抑止するには不十分だ。警戒しているぞ、見ているぞ、そういうメッセージが伝わるよう、顔をしっかり三塁側へ向け、目で制する動きは必須だ。
本当にこれは細かいことだとは思う。あまり野球に関心のない方からすれば、どうでもいいと感じたとしても無理はない。見ても、見なくても、それで何かが起こる確率は0・1%にも満たない。三塁走者を見ることでリスクを回避するケースより、見なくても何も起こらないケースの方が圧倒的に多い。
それでも、私は捕手としては譲ってはいけない部分だと感じる。DeNAの伊藤光は5回裏日本ハムの攻撃で同じ1死一、三塁のケースに、しっかり顔を三塁へ向けて動きをチェックしていた。さらに一塁走者の動きも見ていた。ヘルメットの動きから感じた。
捕手は走者が気になるものだ。気にならなくてはならない。殊にそれが三塁走者であれば、気にならないはずがない。気になれば、当然のことながら視線を送る。1球、1球ピッチングを受けては視線を送り、無言のメッセージを走者に送る。その繰り返しが、万が一にもホームスチールを防ぐもっとも効果的な作業であるからだ。
今も覚えている。三塁走者新庄、打者小笠原、対するは阪神の福原-矢野のバッテリー。2004年のオールスター第2戦(長野オリンピックスタジアム)の3回2死三塁。カウント1ボール2ストライクから、福原の140キロは外角へ外れた。矢野はいったん三塁走者新庄に目を向けた。それから福原に山なりの返球。すぐに新庄の異変に気付く。福原は慌ててホームへ送球するが、ヘッドスライディングの新庄の手がわずかに速かった。
ホームスチールには2種類ある。主に左投手が三塁走者への警戒が甘くなり、投球モーションに入る直前に走者がスタートを切って奪う。これが典型的なホームスチールだが、もう一つある。新庄が奪ったパターンだ。捕球した捕手が投手へ返球する直前にスタートを切り、ホームを奪う。
この時、矢野は返球前にちらっと新庄を見ている。しかし、その後の返球が山なりになるのを予期してたかのように新庄はスタートしている。華やかな空気感の中、新庄も思い切りよく狙えたはずだし、福原-矢野にも、そこまで厳しく警戒する意識はなかったとは想像できる。
古川裕には覚えておいてもらいたい。捕手としてプロに入り、ユニホームを脱ぐまで、公式戦でホームスチールを許すことはないかもしれない。トライされることすら1度もないことだって十分にあり得る。それでも、三塁走者には1球ごとにしっかり目線を送り、絶対に意識から外してはいけない。
この試合でDeNAは1軍でレギュラーを張ってきた伊藤光がマスクをかぶっていた。古川裕からすれば見て学ぶことはいくらでもあるお手本だ。その伊藤光は、しっかり走者に顔を振って見ている。その光景は、学ぼうという意識があれば古川裕の目にも映っているはずだ。自分はしっかり顔を向けて見ないと自覚していれば、その違いはいやがおうにも胸に刺さってくるはずだ。そうでなければ、いつか防げる失点を与え悔やむことになる。そうなってからでは遅い。
制球を乱して四球を与えた投手に声もかけない。一塁や三塁にセーフティーバントを頭に入れろとのジェスチャーもない。投球を受け、常に一定のリズムで返球する。受けるだけで、1秒1秒で場面が動いていく試合に応じた観察力も、対応力も残念ながら感じられなかった。
イニング間の送球では、伊藤光がしっかり左足に体重を乗せて二塁送球しているのに対し、古川裕は左足のステップが大きく開き、実戦では到底投げないフォームで送球していた。あらを探そうと思って見ているわけではない。自然と目に入ってくるのだ。
古川裕には知ってもらいたい。見られていることを。周囲をケアする意識が低く、それが動きの端々に出てしまっていることを。
私の話になって申し訳ないが、1軍でレギュラーをつかみかけていたころ、西武の伊東、ロッテの袴田さん、阪急の藤田、中島、彼らのどんな動きも参考にしようと必死で見ていた。基本が、とか、捕手のセオリーが、とか、そういうことを飛び越えて、うまい選手を見て、どこまでも細かく見て、自分のプレーと頭の中で比べながら、何が違うのか、何が正しいのかを常に考えてきた。
プロ2年目で背番号「27」。大きな期待を寄せられている。伊東、古田、谷繁ら歴代の捕手がつけた捕手を代表する背番号だ。その期待に応える捕手に育ってほしい。
この試合で2安打した。いいバッティングをしている。それが、気が付けば打撃がいいから野手にコンバートされていたなどと、そんなニュースは聞きたくない。この日を境に捕手としての備えを極限まで考え、立派な日本ハムの正捕手に育ってもらいたい。厳しいことを並べたが、あとは古川裕どう受け取るか。そこから先は誰も手は貸してくれない。(日刊スポーツ評論家)





