野球手帳

カナノウに負けた2人…近江林&有馬の長い夏/前編

1月中旬、滋賀県彦根市にある近江高校を訪れた。近江、といえば多くの高校野球ファンを魅了したバッテリーがいる。林優樹投手と有馬諒捕手(ともに18)。抜群の制球力を誇る技巧派左腕の林と、インサイドワークに優れた頭脳派・有馬の名コンビだ。

引退し髪も伸びた近江の林優樹投手(右)と有馬諒捕手
引退し髪も伸びた近江の林優樹投手(右)と有馬諒捕手

この2人と言えば、18年8月18日、夏の甲子園準々決勝の金足農(秋田)戦。日本ハム吉田輝星を擁した金足農(秋田)に、9回2ランスクイズを喫して敗戦。甲子園100回大会の夏、「カナノウに負けたバッテリー」。2人の代名詞のようになった。

取材の話題が高校生活の振り返りに及んだ時だ。何げなしに有馬が言った。「これはカナノウ戦の話もした方がいいですか?(笑い)」。こちらの意図をくもうと投げかけてくれた。もちろん「カナノウ戦」に触れられるのが嫌なわけではない。林は言う。「ぼくにとっても成長させてもらった試合だと思っていますし、高校野球に一生残ると言えば残る試合。自分が野球をやっているうちは絶対に聞かれると思っています。それは嫌ではなくて、そういってもらえるのは見てもらってたんやなと。(言われるのは)全然苦じゃない」。あの経験はほかの何にも代え難いものだ。「近江ファンが結構増えたのはカナノウのおかげです」という冗談も加えるほどだ。2人の2年半の高校野球生活。彩ったのは、あの試合だけではない。カナノウ戦以外の時間について聞いてみた。

有馬が真っ先に口にしたのは、18年夏の甲子園3回戦の常葉菊川(静岡)戦だ。「常葉菊川との試合は1番好きな試合でしたね。林の魅力が存分に発揮された試合だったと思います」。林の持ち味でもあるテンポの良い投球に、宝刀チェンジアップも駆使して5回までノーヒットピッチング。「5回で10奪三振みたいな試合で。正直受けている自分も気持ちが良かったです。こんなに楽しい試合はなかった」と、有馬は口元をゆるませる。捕手冥利(みょうり)に尽きる、そんなゲームだった。

その試合、先発した林は8回を3安打11奪三振。1度も首を振らなかった。「あの試合は何もかもうまくいったというか。自分が持っている、はるか上の力を出させてもらった試合。今までの野球人生でもないんじゃないかというくらい投げていて楽しかった。甲子園で持っている以上の力を出させてくれる、というのはこういうことなんじゃないかなって。2年夏のどの試合でも感じました」。林の投球術、それを引き出す有馬の冷静なリード。その夏は、初戦で同年センバツ準優勝の智弁和歌山を7-3で破ると、2回戦では前橋育英(群馬)に4-3で勝利し、続々と強豪校を撃破。琵琶湖をイメージした鮮やかな「近江ブルー」のユニホームに身を包んだ2年生バッテリーは、徐々に全国の野球ファンの注目を集めていった。【望月千草】

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

18年夏の甲子園、常葉大菊川戦に先発した近江・林は8回1失点の力投(2018年8月17日)
18年夏の甲子園、常葉大菊川戦に先発した近江・林は8回1失点の力投(2018年8月17日)
18年夏の甲子園、近江・有馬は前橋育英戦で中前にサヨナラ適時打を放ちガッツポーズで一塁へ向かう(2018年8月13日)
18年夏の甲子園、近江・有馬は前橋育英戦で中前にサヨナラ適時打を放ちガッツポーズで一塁へ向かう(2018年8月13日)

 野球をこよなく愛する日刊スポーツの記者が、その醍醐味、勝負の厳しさ、時には心が和むようなエピソードなど、さまざまな話題を届けます。

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