野球手帳

今夏はスタンドも1球に集中、生まれる緊張感と圧力

熊本で高校野球を取材し驚いたことがあった。12年から3年間、九州地区の担当をしていた。夏の熊本大会だった。スタンドの控え部員が大声でプロ野球選手の応援歌などを歌い応援している。

7月4日、8回コールドゲームが決まり、名南工の武藤翔輝投手(3年)は空を見上げる
7月4日、8回コールドゲームが決まり、名南工の武藤翔輝投手(3年)は空を見上げる

ある高校ではPL学園のスター清原和博氏(52)の西武時代の応援歌を歌っていた。「燃える男だ チャンスに強いぞ○○(選手名)!」と歌うと思っていたら「チャンスにつ~よ~い~」とそこで歌詞が終わって驚いた。さらに別の日に別の高校も同じように歌詞の最後が変わっていた。それが何校も。30年以上、先輩から後輩へ、いろんな学校へと伝わるうちに変化していったのだろうか。

昨秋から関西、東海地区などの高校野球を担当することになり、またそれぞれの地区の応援文化を楽しみにしていた。だが、新型コロナウイルスで各都道府県の独自大会は無観客に。控え部員も大声や踊っての応援はできなくなった。

4日、愛知大会の中京大中京対名南工(パロマ瑞穂)を取材した。名南工の控え部員も3年生の保護者も間隔を空けて静かに戦況を見つめていた。昨秋神宮王者に4回まで0-2と善戦。控え部員たちは「打球エグイッ」と相手の強さを感じながらも、あらかじめ下がって守っていた外野陣が好捕するたびに「オオッ」と声を出し拍手した。エース武藤翔輝投手(3年)は、恐れず内角を攻め、カットボールなどを駆使。ピンチを抑えベンチへ戻るごとに、スタンドの控え部員に小さくグラブを挙げて合図していた。最後は力尽き0-7の8回コールド負けも武藤は「ベンチ外の部員や保護者の気持ちも込めて投げました。負けてしまったけれど、20年後、30年後も記憶に残る試合ができたと思います」目を真っ赤にしながらも、やりきった表情だった。

スタンドは静かだが、全員がその1球に集中し、ベンチ外の関係者も全員で試合に入り込み、戦っている。緊張感があり、その圧力は意外と大きいと感じた。今大会はどこもそうなるだろう。大声やダンスなどで盛り上がる今までの応援も、新型コロナウイルスが終息すればまた再開されるだろう。記者は高校3年の夏、ベンチに入れず最後の試合はスタンドで応援団長だった。あの時は声や歌でチームを盛り上げて勇気づけたいという一心だった。グラウンドに背を向け、音頭を取ることで必死だった。だが、名南工の控え部員みたいに1球、1球に集中し最後の試合を見るのもいいなと思った。この夏もまた新しい発見がありそうだ。【石橋隆雄】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

 野球をこよなく愛する日刊スポーツの記者が、その醍醐味、勝負の厳しさ、時には心が和むようなエピソードなど、さまざまな話題を届けます。

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