<都市対抗野球:日本新薬5-2三菱重工広島>◇第8日◇29日◇2回戦◇東京ドーム

「今日で終わりか…」。試合終了の瞬間、チームとともに歩んだ16年間が脳内によみがえってきた。チーム最年長・実政(さねまさ)太一外野手(34=如水館)は創部75年目で活動を終える三菱重工広島とともに、自らの野球人生に終止符を打った。

「絶対打ってやる」と臨んだ第1打席。1回2死、内角高めの直球を振り抜き右翼への先制ソロ。チームを勢いづける1発も、以降は快音は残せなかった。チームは中盤に3本塁打を浴びて逆転。終わりの時間は刻々と近づいていた。それでも9回1死から2つの内野安打。チームメートがヘッドスライディングで流れを引き寄せた。「泥臭く全力疾走。全員が束になって相手に向かっていく」と実政が説明する三菱重工広島スタイルそのものだった。2056人の観客もそれに呼応。都市対抗名物の応援合戦も、鳴り物もメガホンも禁止される中、自然と手拍子が起こり、ナインの背中を押した。実政はベンチから目の当たりにした。「胸が高鳴るというか…武者震いが起きました」。

しかし反撃もここまで。元広島の町田公二郎監督(50)は優勝して有終の美を飾ることを目指していたが「力及ばず…」と悔しさをにじませた。

チームは解体され、プレーを続ける選手はバラバラに散る。実政はそんな後輩たちへ言葉を贈った。「ここで経験したことを生かして、1人でも多く、1年でも長く野球を続けて欲しい」。生え抜きで16年間三菱重工広島の野球を体現した男の姿は彼らに受け継がれていく。【小早川宗一郎】

三菱重工広島対日本新薬 創部75年の最後の試合を終えた三菱重工広島ナインはスタンドの応援席に頭を下げた(2020年11月29日)
三菱重工広島対日本新薬 創部75年の最後の試合を終えた三菱重工広島ナインはスタンドの応援席に頭を下げた(2020年11月29日)