阪神の開幕投手は移籍2年目の右腕・西勇輝に決まった。前日18日、指揮官・矢野燿大が虎番記者キャップたちを前に公表した。理由も説明していた。それはいい。しかし、少しだけ不思議だな、と思った。

なぜ、このタイミングで公表したのか。そういうことだ。しかもキャップたちに聞かれたわけではなく、自ら切り出す形で明かした。これは、なかなか面白い。そう思った。

なにしろ状況がいまひとつだった。西は18日に行われた紅白戦で2アーチを浴びるなど1回4安打3失点と散々な内容に終わった。

一般的に指揮官が開幕投手を公表するタイミングとしては、実戦でいい結果が出たとき、オープン戦での登板を終えたときなどが普通である。もちろん例外はあるけれど。

しかし、そこが矢野流だった。選手をもり立て、やる気を引き出す。常に物事を前向きに考え、選手にもそう考えるように指導している。そう思えば、矢野にとって前日は実は非常にいいタイミングだったのかもしれない。

ひょっとして西が「打たれた。面白くない」と思っているかもしれないあのときこそ、タイミングだ、と決めたのか。

矢野 打たれたから公表したのか? と聞かれれば“そういう部分もないことはない”という感じですかね。公表のタイミングといってもね。聞かれれば言おうと思っていましたし。別に明らかにするのはいつでもいいわけで。もう信頼感はあるので。

この日になって発したこちらのストレートな質問に考えながら矢野は率直に話した。手前みそで恐縮ながら遠回しだとはいえ、こちらの見立ては外れていないということだろう。

結果がいいときに「開幕を任せた」と明かすのは簡単だが、よくなかったときにあえて、それをする。2年目を迎えた矢野の真骨頂だと書けば大げさかもしれないが、結構、そういう感じだと思う。

あとは西がその期待に応えて、どういう投球をするか。思い出すのは昨年9月28日のDeNA戦(横浜)だ。1回に打球を足で止めるガッツを見せ、5回無失点で10勝目をマーク。逆転でのCS進出に勢いをつけた。どちらかと言えばクール、知的な印象の投手だがここは意気に感じて燃え上がるような投球を見せてほしい。開幕1カ月を前にして、そう思う。(敬称略)

守備練習を行う西勇輝(撮影・清水貴仁)
守備練習を行う西勇輝(撮影・清水貴仁)