「勝つためには相対的な要素も大事や」。野球担当だけでも25年を超える記者生活、取材対象が発した言葉で忘れられないものはいろいろある。闘将・星野仙一の口から出たそんなセリフもその1つだ。

18年ぶり歓喜の優勝を遂げた03年の阪神。当時、虎番担当キャップだった私は、数年後に星野と雑談する中であらためて優勝を振り返ることがあった。

「今更ですが、なんで、あのシーズンは優勝できたんですかね?」。お互い酒を飲まないのでコーヒーカップを手に話した。そのときに出た言葉がそれだ。そして星野は続けた。「つまりゴジラがおらんようになったことや。あれは大きかった」-。

03年は金本知憲、伊良部秀輝の大型補強を生え抜き戦力と融合させたことが勝利の大要素だった。星野もそのときはあまり口にはしなかったが「融合」に力を入れていた。だから、そういう話をするのかと思って話を向けたのだが意外と言えば意外、納得と言えば納得の話をした。

02年オフに巨人不動の4番打者だったゴジラこと松井秀喜が大リーグ、ヤンキースに去った。星野が言ったのはこのことだ。主砲が抜ければ、当然、チームの力は落ちる。それが阪神にとってプラスに働いたという考えだ。

自軍の強化は言うまでもないが戦う相手が弱るのも勝利の要素だ。当然なのだが、それをキッパリ言うところが、やはり星野は勝負師だった。

この日のヤクルト戦は試合前から注目していた。山田哲人の名前がスタメンになかったからだ。偶然にもというかマツダスタジアムで行われた広島-巨人戦でも、元広島の3番打者で今は巨人の3番である丸佳浩もスタメンで出なかった。

山田、丸の2人は今季ここまで調子がなかなか上がらないようだ。もちろん理由は分からないが「超」のつくような一流選手でもそういうことはある。

何を言いたいか。看板選手が欠いた側からすれば、その試合で勝てば勢いがつくし、負ければ、やはり元気はなくなる。だから阪神はこの試合を取らなければ。そう思っていた。しかし先制され、追いついても、また突き放され、結局、長い試合で勝てなかった。さすがに現在、首位を争うチームというべきか。3戦目。山田がスタメンかどうかは分からないが、やはり、ここは大事だと思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対ヤクルト ヤクルトに敗れ、スタンドの観客にあいさつする矢野監督(左端)ら阪神ナイン(撮影・前田充)
阪神対ヤクルト ヤクルトに敗れ、スタンドの観客にあいさつする矢野監督(左端)ら阪神ナイン(撮影・前田充)