多賀のエース、有馬悠大投手(3年)が、9回の最後まで投げ抜いた。

 4-4で迎えた9回裏、1死二塁。霞ケ浦の4番菅野日向磨(ひゅうま)一塁手(3年)にスライダーをとらえられ、右前サヨナラ適時安打。昨年準優勝校を最後まで苦しめたものの、最後の最後で力尽きた。「やりきりました。悔いはないです」。有馬の目は潤んでいたが、どこか晴れやかさもにじんでいた。

 有馬は高校1年の1月に左目網膜剥離で失明寸前まで追い込まれた。左目が見えなくなる恐怖と、大好きな野球ができなくなる不安に押しつぶされ、何度もグラウンドの隅で涙を流した。2月、高校2年の4月、6月に3度の手術、入退院を繰り返し、医師に汗をかくことを禁止されるところからのスタート。昨夏は先輩が有馬のグラブでマウンドに立ち、後輩たちも日立からつくばの病院まで見舞いに駆けつけた。「最高のチームメートで、感謝しかないです」。秋、ゆっくりとしたランニングから体を慣らし、春には本格的に登板できるまでに復活した。

 今も左目は「光が分かる程度」ながら、1回戦から3回戦まで全て投げ抜いた。打席でも果敢にバットを振り、もちろんヒットも飛び出した。有馬を3年間指導してきた海東厚紘監督(25)は「霞ケ浦相手に150%の力を出したと思います」とナインをたたえた。有馬は夢に向かって新たな1歩を踏み出す。「高校野球で、助け合うことの大切さを感じました」。自分が経験したからこそ、夢は理学療法士から視能訓練士に変わった。「助け合うということを伝えたい」。周りに勇気を与えたエースが、新たなステージへと歩みを進める。【戸田月菜】