「帝京魂」復活だ! 帝京が、10年ぶりのセンバツ甲子園を目前とした。創価との準決勝は5回まで2点をリードされたが、前田三夫監督(70)の指示が苦しい流れを変えた。ソロ2発で追い付き、9回サヨナラ勝ちで決勝へ。優勝なら、10年以来となるセンバツ甲子園が確実となる(夏は11年が最後)。

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三塁側ベンチから前田監督の魂こもった鋭い声が飛んだ。「お前で決めろ!」。

2-2の9回2死一、二塁。この秋初めてスタメンに抜てきした尾瀬雄大外野手(1年)が、3ボールからストライクを取りに来た直球を見逃したからだ。1年生は叱咤(しった)に応えた。次の高め直球をライナーで中前へ。サヨナラ打に、前田監督も拳を握りしめた。

劣勢を変えたのも指揮官の言葉だった。散発3安打の0-2で5回終了。創価・森畑の伸びのある球を強引に打ち、引っかけた当たりが目立っていた。グラウンド整備の間、選手たちにこう語り掛けた。「相手の球がキレているのに振りすぎ。シャープに。まずは同点。それから、好きに振っていい」。

6回先頭の武者倫太郎一塁手(2年)が左越えへソロ。1死から加田拓哉外野手(2年)が左中間へ同点ソロ。ともにコンパクトなスイングながらもフェンスを越えた。

サヨナラの起点も前田監督の言葉の力だ。尾瀬の打席、初球はボール。すかさず伝令を送った。「逆方向の意識を持て」。第2、3打席は引っ張って内野ゴロ。尾瀬は「(伝令で)楽になりました。逆方向へ打とうと」。最後はシャープに振り抜き、中前へ運んだ。

甲子園通算51勝の名将が、10年近くも聖地を踏めずにいる。あと1勝。周りの期待をいなすような、静かな口調で「ここまで来ましたから。選手に任せてますよ」。試合前も「頑張ろうぜ」だけ。関東第一、日大三、東海大菅生らが集った激戦ブロックを勝ち上がった選手たちに、過度な指示は不要だ。

主将の加田は「今日の勝ちはリセットして、帰って練習です。監督は自分たちを信じてくれている。絶対、甲子園に連れて行きたい」。あとは国士舘を砕くだけだ。【古川真弥】