3月のセンバツを異次元の戦いで優勝した大阪桐蔭の周辺が騒がしい。目立つ論調の1つがナインの出身地だ。今大会のレギュラーで地元大阪の中学から入学したのは、丸山一喜内野手(3年)だけで、全国から有力選手をスカウトしていると指摘されている。

だが「越境入学」でチームを構成する強豪は他にもある。圧倒的な力を示せばこそ、大阪桐蔭をやゆする声をアマチュア野球の取材現場でたびたび耳にする。才能に恵まれた選手が多いのは事実だが、まだ高校生だ。どのように育て、導くか。本当に大切なのは指導者の手腕だろう。「好素材獲得→優勝」と結びつけるのはあまりにも短絡的だ。

なぜ強いのか。ヒントは3月30日の準決勝後、西谷浩一監督(52)のひと言にある。今大会でPL学園の中村順司元監督を抜いて単独2位の甲子園通算61勝まで重ねた。名門PLへの思いを質問した時、言った。「(中村監督は)本当に野球の指導だけじゃなく、心の指導をされる」。これまで大阪桐蔭が大切にしてきたことにつながっている。

大会中に聞いた言葉を思い出した。西谷監督が甲子園1勝目を挙げた05年夏の甲子園で主将だった小林晃徳さん(34)を取材した。当時、どんな指導を受けていたのか聞いていった。15歳からの寮生活。こんなことを教わったという。

「お父さん、お母さんには感謝しなさい。出身チームの監督さんには『メンバーに入れました、レギュラーになれました』という連絡を必ずしなさい」

グラウンドの外での言動がプレーの土台になる。物事の筋道をきっちりと立てる-。西谷監督は生徒に教えるだけでなく、自らも、誰に知られることもなく、実践してきた。甲子園72試合。指揮を執った試合後、欠かさず、恩師で前監督の長沢和雄さん(71)に電話をかけてきた。覚悟を定めた生き方の一端に触れた。

なぜ強いのか。対戦校と比べても、打撃の力強さがまるで違った。この冬、星子天真主将(3年)は「どんなメニューでも日本一の練習をしよう」と仲間に伝えてきた。あの猛打は連続ティー打撃200球、ロングティー打撃200球を連日、取り組んできた成果もあるだろう。心、技、体、そして伝統…。さまざまな要因が絡み合って、春の頂点に立った。

夏は全国のライバルから「打倒大阪桐蔭」と標的にされる。なぜ強いのか。この疑問を追う日々は、まだまだ続きそうだ。