16点差で迎えた4回裏2死一塁の守備。瑞穂農芸の2番手・石井陽投手(3年)はフライを捕球した松井幸生中堅手(3年)に、マウンドから笑顔で拍手を送った。松井は元吹奏楽部。石井が声をかけて、野球部へ誘い入れた仲間だった。

瑞穂農芸は都内で唯一、畜産を学ぶことができる都立校。放課後になると、畜産科学科の石井はユニホームではなく、青い作業着へ着替える。牛の管理のため、部活へ行けない日も多い。5月上旬、学校グラウンドで練習試合に臨んだ時のこと。2打席目の途中で、牛舎から「牛がやばい」と聞こえてきた。担当する牛が産気づいていたのだ。凡退に終わると、すぐさま自主退場。50kgの雄牛の出産を見届けた。「天使みたいでかわいかった」。動物の管理と野球を両立し、エースで4番として、チームを引っ張ってきた。

野球は中学から始めた。友人に熱心に誘われたからだ。チームでただ1人の野球未経験者だったが、仲間のおかげですぐに上達した。「野球の楽しさを1人でも多くの子に伝えたい」。そう思い、高校では同学科の2人を野球部へ勧誘。部員11人で勝利を目指した。

結果は0-16の5回コールド負け。チームは1本もヒットを打てなかった。それでも、さわやかな表情でこう言った。「いい仲間、いい先輩、いい指導者と出会えて、幸せな3年間でした」。将来の夢は酪農家だ。明日からまた、牛の世話で忙しい日々が始まる。【藤塚大輔】

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