2016年6月15日、サンディエゴのペトコ・パークでのパドレス戦で、マーリンズのイチローさんはピート・ローズ氏の大リーグ通算最多4256号を抜き、4257安打の記録を達成しました。


あとヒット1本でローズ氏と並び、2本でローズ氏超えとなるこの試合。いつ記録達成してもいいように、数日前からどこで撮るか、どこにリモコンを仕掛けるか、天気や気温まで想定しながらその日を待ちました。日本からも多くのカメラマンが派遣され、中には3人体制で臨む社もありました。


というわけで今回のミッションはイチローさんの歴史的瞬間を「オンリーワンの写真で祝福する」です。


デーゲームの当日は快晴で気温も高くなる、との天気予報でした。前日はナイターだったので、メディアゲートの開門の15時に合わせてスタジアムに入り、600ミリレンズを担いで外野へ。センターから打撃練習をしている選手でテスト撮影すると、カゲロウが酷い。レフト、ライトからもチェックしましたが、どちらもダメ。ただ、風が吹くとクリアになるカリフォルニアの夏特有のデーゲームでの現象です。短いレンズでの一塁カメラ席、三塁カメラ席からの撮影だと大丈夫そうですが、大きくトリミングをしたら、カゲロウの影響で少々シャープさに欠けます。


いろいろなパターンでテストした状況を踏まえ、撮影ポジション選びです。イチローさんが所属するマーリンズのベンチは三塁側。


<1>単打だったら

ペトコパークでは一塁カメラマン席の最内側のボックス席から撮れば、一塁ベース後方の大きな電光掲示板が入ります。記録を祝福する掲示板とヘルメットを上げるイチローさんがきれいに絡む。しかし、このボックス席に入れるのは地元メディア1社のみ。我々が入れる一塁のカメラマン席からだと、一応絡むには絡むがイマイチ。逆に三塁側から撮れば、イチローと祝福するファンと絡むがこれがベストかどうか微妙。んー、ビミョー。


<2>二塁打だったら

一塁側から撮れば、一塁を駆け抜けるイチローさんと自身の写真が大きく映し出される電光掲示板がきれいに絡む。ただし<1>と同様で我々が入れる一塁カメラ席からの絵だとしっくりこない。ヘルメット上げに関しては、三塁ベンチから祝福するナインへ1番良い表情を見せるかもしれない。そうなれば三塁側から撮った方が良い。ヨイヨイ。


<3>三塁打だったら

マーリンズのベンチが三塁側だから、ナインがフィールドに駆け寄り祝福するかも。そうなると三塁側から撮った方が表情は魅せられる。2012年ヤンキース時代に日米通算4000本安打を単打で達成した時には一塁ベンチからナインが駆け寄り祝福した。シタシタ。


<4>本塁打だったら

ベンチ前にナインが並び、イチローさんを出迎え祝福するかも。それなら三塁側だ。欲を言えばセンターポジションからの打撃の写真は欲しい。しかしテスト撮影から考えると、カゲロウで失敗する危険性が大。ダイダイ。


さぁ、考えて考えて考え抜いて選んだ私のポジションはーーーーー、三塁カメラ席。


イチローさんならばこの場面、単打ではなく長打を狙うと(勝手に?)予想。さらに一塁カメラ席最内のボックス席には70-200ミリのリモコンカメラを設置(地元メディアが仲の良いカメラマンだったので頼めました)。また、センターにも600ミリのリモコンカメラを設置。カゲロウは怖いですが、記録の瞬間に風が吹いて消えてくれたなら、ドンピシャの絵になるはず。


試合が始まりました。イチローさんは初回に安打を放ち、ローズ氏の記録に並びます。新記録に手に汗握りシャッターを切りますが、3回投ゴロ、5回に三振、7回投ゴロ。


ドキドキは最小限にとどめたいので、出来れば今日中に決めくれーと念じていたら、運良く9回にも打席が回ってきました。


敵地のファンも立ち上がり、声援を送る中でイチローさんが放った強烈な打球は一塁手の頭上を越えて右翼線に転がります。イチローさんは一塁を蹴り、ゆうゆうと二塁に到達。連写、連写です。ファンも総立ちでスタンディングオベーションでした。


ヘルメットを上げてスタンドを見回しあいさつするイチローさん。なんてすがすがしい、ホッとした表情だろう。歴史的瞬間に、全身鳥肌です。ゲームセット後、ベンチに戻ったイチローさんはコーチだったバリー・ボンズ氏や監督、ナインに祝福をされてロッカールームに戻って行きました。


結果はシミレーション<2>の二塁打でした。


ボックス席のリモコンからは一塁ベースを蹴り二塁に向かうイチローさん、私の手持ち三塁カメラ席からは打撃や、ヘルメット上げ、祝福されるイチローさん写真が撮れました。


やはりセンターからのリモコンはカゲロウが醜くてボツ…。紙面のメインは一塁ベースを蹴って二塁に向かうイチローさん、後方に大型ビジョンでした!

【菅敏】


(ニッカンスポーツ・コム/WBBコラム「カンビンの早く観たい撮りたい伝えたい」)