日本ハム吉川光夫投手(27)が、今季2度目の完投で8勝目をマークした。9回に楽天岩崎に適時打を浴び、3年ぶりの完封勝利はならなかったが、5安打1失点の粘投。6月13日DeNA戦(札幌ドーム)以来の完投で、チームの連敗、対楽天の連敗をともに4で止めた。
蒸気したほおに、大粒の汗がつたった。吉川が、お立ち台で覚悟の強さをあらわにした。「本当に連敗を止めるんだと思って臨んだので、勝てて良かった」。勝利への真っすぐ思いを、直球に込めた。序盤は完全投球でリズムに乗ると完封ペース。9回に1失点も今季最多130球で完投した。栗山監督は「やっぱり真っすぐだよね。暑い時期になるとアイツらしくなってくる」と目を細めた。上位争いが激しくなる夏場に、強い使命感でチームを救った。原点は、高校球児になる直前にあった。
広島の名門・広陵へ進学を決める前。40校近くから誘いを受けたが、広陵・中井監督の人間性にひかれて心は決まった。唯一の心残りは、故郷・福岡の両親の元を離れること。「福岡からの距離を年取ったお父さん、お母さんが応援に来ることを考えると、来たいけど、近くの学校がいいのかと悩んで、胃が痛いんです」。進むべき道に迷い、恩師となる中井監督に悲痛な胸の内をこぼしていた。
進学が決まる直前。念願のグラウンドを目にした時だった。その道中の石段で思わずうずくまり、うなったという。中井監督に「おなか痛いんか」と声をかけられ、声を振り絞った。「僕、広陵に行きたい。監督さんの下でやりたいんです」。家族、監督のために使命感を抱いた瞬間だった。巣立ってからも元チームメートで慕っていたダルビッシュ(レンジャーズ)に教わった練習法などを、母校の後輩にも伝授しに足を運んだ。
野球人生を懸けた決断は、今につながる大きな原動力になった。この日は同一カード3連敗後のカード初戦を任され、期待に応える粘投。脳裏には12年にパ・リーグMVPに輝いた自身がいる。「越えなきゃいけないと思っているし、越えて当たり前だと思っている」。深く、重い連敗から救ったのは、新たな使命感を燃やし始めた吉川だった。【田中彩友美】



