「仕事人」の一打が光った。広島小窪哲也内野手(30)が1点を追う9回に代打同点中前適時打を放った。チームを救う最高の一撃で、球場の雰囲気は最高潮に達した。まさしく広島に希望を与える一打だ。頼りになります、この男。残り21試合も頼みます!

 ヘルメットの奥から、鋭い眼光がのぞいた。何かをつぶやいている。そのとき小窪は「自分でも怖くなる」と笑う“サイヤ人モード”に入っていた。シアーホルツの左前適時打で1点差に迫った9回2死二塁。下水流に代わって代打で登場した。最後の切り札は小窪コールを背に受けながらイメージを膨らませていた。3ボールからの4球目。歯が見えるほど食いしばり、内角の球をしばいた。

 打球は投手田島の左横を通り過ぎ、中前に抜けた。快足赤松が生還し、小窪も二塁へ。このとき小窪はすでにいつもの小窪に戻っていた。これが一振りに掛ける男の集中力だ。球場を興奮のるつぼに招き入れながら、冷静にプロテクターを外した。代打稼業という特殊能力を「うれしくないよ。そりゃレギュラーで出たいから」とぶっきらぼうに言う。だがその小窪にしかない能力に、全員が救われた。

 これで今季の代打成功率は3割9分。なぜ打てるのか-。率直に疑問をぶつけると「分からん! たまたまとしか言えんよ。甘い球もよう来るし」と恥ずかしがる。だがさらに問い詰めると「ただ、ね。明日打てる保証はない。ということは明後日1軍の保証はない。準備だけはやってるかな」。恐怖心がサイヤ人を出現させ、甘いボールさえも増やしているのだろう。

 小窪を支える存在は他にも多い。「年上っていうのもあるけど、本当に奥さんは安心できる存在だからね」。毎朝夫人が作るスムージーを飲み、気持ちを整える。最近のお気に入りは桃味だ。ぐっと飲み干して球場へと向かう。仕事を終えて帰れば、愛犬ビビにいやされる。スイッチを切る時間が、小窪を支える。

 打てば打つほどその能力が際だつ葛藤がある。だが、いるだけで戦力になる存在なのは間違いない。「今の俺の立場は、チームが勝たな意味がないからね」。小窪はすぐに次戦を見つめた。この男には勝利しか見えていない。一振りの仕事のその先にある、レギュラー争いを求めて。【池本泰尚】