「誠」と歩むぞサクセスロード! 広島の新人6選手が8日、合同自主トレをスタートさせた。ランニングやキャッチボールの後、トレーニングの指導を受けた。ドラフト5位のアドゥワ誠投手(18=松山聖陵)の新品のウエアとグラブには「誠」の文字が。大阪の町工場がつくる野球用品のブランドで、プロ野球で初めて完全提供を受けることになった。自身の名前と同じ「誠」とプロ生活をスタートさせた。

 グラブにもウエアにも、金色の文字で「誠」が輝く。アドゥワの名前が書かれているわけではない。大阪・堺市の町工場イクノ工房が作る野球ブランドの名前も「誠」だ。全国的には無名のメーカー。だがアドゥワと「誠」には、深~い関係がある。出会いは熊本の出水中時代。「偶然お店で見つけて、同じ名前だと思って使い始めました」。革の感覚がしっくり来た。すぐに気に入った。

 松山聖陵に進学後も、こだわって使い続けた。大手メーカーの用具を使用する話もあったが「僕は誠を使います」と断り、昨夏の甲子園も「誠」をつけて出場した。話を聞いたイクノ工房の代表生野秀次氏(62)は驚いた。「うれしかったですね。大舞台でも使ってくれた。広島に入ると聞いて何とか協力したかった」。大手メーカー勤務時代に広島を担当していた縁もあり、用具提供が決定。練習グラブとして使用するプロ野球選手はいたが、完全提供はアドゥワが初めてだ。

 「誠」ブランドとして販売しているのはオーダーグラブのみ。完全提供となったため、他メーカーの協力も受けながらウエアやスパイクも用意した。「30センチなのでスパイクに苦労しました」と生野氏は苦笑い。「アドゥワ君からの要望は少ないけど、改良していきたい。何とか一流になるお手伝いが出来れば。手に素直なグラブを届けたい」と続けた。独立前は「誠」の命名者でもある江夏豊氏の用具も担当。品質には絶対の自信がある。

 小さな工房のため、「あまり有名になりすぎても困るんです。うちの職人でまかなえる範囲じゃないと」と苦笑い。全力でアドゥワが成功するためのサポートに徹する。アドゥワも「契約選手はプロで初めてと聞いています。一緒に有名になりたい」。「誠」をまとった誠が1軍マウンドを目指す。【池本泰尚】

 ◆アドゥワ誠(まこと)1998年(平10)10月2日、熊本市生まれ。父はナイジェリア人、母は日本人。出水南小1年の時に熊本中央リトルで野球を始め、出水中では熊本中央シニアに所属。松山聖陵では1年秋から登板。昨夏の愛媛大会では41回2/3を投げて防御率1・30と好投し、同校を初の甲子園出場に導いた。甲子園では初戦で準優勝した北海に惜敗。196センチ、80キロ。50メートル6秒4、遠投120メートル、右投げ右打ち。

 ◆誠 大阪・堺市に本社を置くイクノ工房が製作する野球ブランド。代表の生野秀次氏(62)が大手用具メーカーを退職して設立した。生野氏の長男が誕生した際に、当時担当していた江夏豊氏に命名を依頼。命名された「誠」の名に感銘を受け、許可を取って97年に独立した際のブランド名にも使った。オーダーグラブが中心で、職人が受注ごとに作り上げる。量販店などの店頭に並ぶことはほとんどない。