本拠地甲子園でなぜか勝てない今季の阪神。重苦しい1点差負けで3位巨人との差は2・5ゲーム差に広がったが、鳥谷敬内野手(37)が一時同点となるタイムリーで虎党を沸かせた。背番号1が積み上げた安打はこれで2063本。藤田平氏の持つ球団最多安打記録に、あと1に迫った。

甲子園のボルテージは最高潮に達した。代打・鳥谷がアナウンスされると、黄色のメガホンが一斉に揺れる。1点を追う7回2死一、三塁。背番号1はゆったりと打席に入ると、左肩に乗せたバットをすっと立てて呼吸を整えた。

「なんとかつなごうと思って。自分の打席に集中して、初球から積極的に振りにいきました」

果敢に狙った。初球は巨人上原の136キロ直球をファウル。プロ生活15年間で培った感覚でタイミングを微調整した2球目。内角低めに来た137キロ直球を中前へはじき返した。同点タイムリーに、黄色いメガホンがさらに大きく揺れた。「終盤のチャンスで試合を振り出しに戻すことができて良かった」と鳥谷は静かに振り返った。

これで通算安打は2063本。藤田平氏の持つ球団最多安打記録にあと「1」と迫った。記録に王手をかけたが、当然ながら敗戦に笑顔はない。「また明日頑張ります」と言い残し、クラブハウスへと向かった。

練習では若手選手よりも早く球場入り。黙々と外野グラウンドを走って体を温める。「不安だから、かな。自分でしっかりやっておかないといけないから」。若虎の、野球少年の「お手本」だ。凡退しても下を向かない。三振をしたときも、小走りでベンチに戻ってヘルメットを脱ぐ。「(野球は)失敗の多いスポーツなので。7割は失敗してもいいので」。感情のコントロールが上手にできるからこそ、結果を残してきた。

37歳。途中出場の機会が増えたが、やはり存在感はピカイチ。CS出場圏内確保へ、勝負どころでの一振りに期待がかかる。その時のために、いつも通り、準備を続ける。【真柴健】