まだ足は震えている。巨人阿部慎之助捕手(40)が、文句なしの1発で日本シリーズの開幕を告げた。2回1死、ソフトバンク千賀の初球152キロを迎え入れた。「育成からはい上がってきた、すごい投手だと思うよ。俺はドラ1だから。ドラ1にはドラ1のプライドがある」。パ・リーグ最強右腕を見下ろした。心理的に差し込まれる要素を消し、令和の日本シリーズ1号を決めた。

プロ入り直後の若かりし頃も足が震えた。春季キャンプは通常メニューの後、夜間練習に明け暮れた。当時打撃コーチだった内田順三氏から過酷な練習量を課せられた。打撃マシンを1時間、打ちっ放しが日課だった。午後8時過ぎに宿舎に戻って「夜食はたこ焼き。夕食を食べると夜間練習で気持ち悪くなるから食べられなかった」。震える足で必死に踏ん張り、バットを振ってきた。

「この苦しい練習が、この先、必ず生きる。絶対に自分のためになって返ってくる。だから頑張れ」。耳にたこができるほど聞かされた内田氏の言葉は今でも離れない。一時代を築き上げ球界を代表する大打者になった。ベテランになって地味なトレーニングに費やす時間も増えた。体幹、肩肘の細かな筋肉を地道に鍛えた。打席に立つための準備には余念がない。

引退を意識するようになった近年も、足が震えた。「打席に入れば緊張する。大事な場面だと、今でも足が震える」。元同僚のサブロー氏から「打席で緊張しなくなったら終わり。俺はだから引退した。慎之助はまだ現役ができる」と言われた。今季限りでの現役引退を表明して臨む最後の真剣勝負。第1戦を落としたが「今日のことは忘れて、また明日から」と言った。最大でも残り6試合。阿部の足は震えた。まだ1敗。戦いは続く。【為田聡史】

▼40歳6カ月の阿部が先制本塁打。シリーズで40代選手の本塁打は12年第3戦稲葉(日本ハム)以来4人目となり、40歳6カ月は03年第7戦広沢(阪神)の41歳6カ月に次いで2位の年長アーチ。阿部の本塁打は29歳7カ月で打った08年第5戦、30歳7カ月の09年第3戦、同第5戦に次いで10年ぶり4本目。シリーズの本塁打ブランクは62年→77年張本(東映→巨人)の15年ぶりが最長で、10年ぶり以上は5人目。20代、30代、40代でそれぞれ本塁打を記録したのは阿部が初めてだ。