今から27年前の1993年(平5)5月1日、巨人松井秀喜外野手(当時18)が1軍デビューした。前年夏の甲子園で5打席連続敬遠。秋のドラフト会議では4球団競合の末長嶋監督が見事当たりくじを引き当て巨人入りした。開幕から1カ月は2軍生活も昇格即スタメンデビューし第2打席で適時二塁打を放ちプロ初安打、初打点をマークした。翌日2日の日刊スポーツはもちろん1面トップで報じた。目を覚ましたゴジラは2日、プロ初本塁打を放つ。

【復刻記事】

ゴジラの逆襲、松井が初安打、初打点、火の出るような中二塁打で大物デビューを飾った。1軍昇格、即スタメン。「7番・左翼」で迎えた5回、強振したバットからあわやホームランのライナーだ。松井に刺激され巨人はこの回犠打を挟んで6連打、5得点の猛攻で逆転勝利。思わぬ相乗効果も飛び出して、やっぱり松井は大物だあーッ。

屈辱も怒りも、どこかへ消えていた。「やっぱ、すっごくうれしかったです」。初のスタメンで、いきなりのお立ち台。落ち着こうとしても、自然と声が上ずる。目頭が熱くなるのを、18歳の怪物は必死でこらえた。

完ぺきだった。5回裏無死二塁。ヤクルトのエース西村に、ゴジラは容赦なく牙(きば)をむいた。時速138キロの真ん中直球。自ら「打った瞬間、入ると思った」打球は、センター・城の頭上を一瞬にして通過した。あまりの痛烈さに、角度がつかず、フェンスを直撃した。公式戦初安打で初打点。うれしいはずの二塁ベース上で、笑顔はなかった。「まだ負けていましたから」。だが、思わず手をたたいたのも忘れるほど、松井は興奮していた。

燃えた。いや、一球一球に集中していた。「7番・レフト松井」。須藤ヘッドコーチからスタメンを聞かされたときは「信じられなかった」が、試合前の場内アナウンスで響き渡った大歓声は耳に届いていた。「歓声はうれしかった。ああいうのは好きですから」。昨年12月、入団発表で「全国の子供たちに夢を与えたい」と言ってのけた高校生が、その5カ月後、ドームの5万6000人を興奮のるつぼに引き込んだ。

技術的な進歩だけではない。「ファームに落とされた悔しさを、毎日忘れずにやってましたから」。素直に出てきた言葉が、この1カ月間の気持ちをすべて表していた。

本当に苦しかった。野球を始めて以来、苦悩を知らなかった男が、「バットを握りたくない」というほど、悩み抜いた。キャンプ以来、3度もオリジナルバットを新調した。タイミングが合わず、足の上げ方、構えなど何度もフォームに手を加えた。オープン戦中は、気分転換をかねて、連日のように中畑打撃コーチが自宅へ食事に誘ってくれた。その数幾度と知れず。だが、「いつかは」という気持ちだけは失わなかった。

バーフィールドの故障で外野に穴が空いた。試合前松井のフリー打撃を見て、長嶋監督はスタメンを即決した。その結果が、電光石火の逆転勝利。「幸運な何かを感じますね。(今後は)状況を見ながらですね」。長嶋スマイルは最高潮に達した。

「5・1ドーム」。ゴジラの逆襲、そして松井の本当の野球人生が始まった。

◇松井の父昌雄さん(石川県能美郡根上町の自宅で)

-松井君が華々しいデビューを飾りました

昌雄さん おかげさまで、本当によかった。

-初安打がタイムリー、もう少しでホームランでした

昌雄さん もう上出来です。あれ以上欲を言ったらきりがありませんよ。

-スタメン出場でしたね

昌雄さん 午後6時前にラジオで聴いてびっくりしました。ホームグラウンドでのデビュー。秀喜にとっても生涯の思い出になると思います。

-昨夜(30日)寮に電話連絡したそうですが

昌雄さん 自分の記録より長嶋監督を胴上げするつもりで頑張れと。今夜も“おめでとう”と言ってやります。

◇松井の恩師の星稜・山下智茂監督(石川県金沢市の自宅で)

-デビュー戦でタイムリーですよ

山下監督 結果を出してほしかったのでうれしい。これで波に乗れるでしょう。

-前日(30日)松井と話したそうですが

山下監督 2軍戦が雨で中止となり、星稜の室内練習場に来たんです。テレビでの顔映りが暗いので、好きな野球を明るくやれよと言いました。

-打つ予感があったそうですね

山下監督 私の家は星稜グラウンドの右翼フェンスの後方にあるんですが、29日の練習で5本が屋根がわらを直撃したんです。調子を上げてくれるのなら、いくらぶつけても構わないですよ。

★松井スタメンまで

4月7日 練習前、長嶋監督に呼び出され、開幕2軍を通告される。「落としたことを後悔させるような活躍をしたい。ゴジラの逆襲です」。

4月10日 高知・春野のイースタン開幕、対ヤクルト戦。ドラフト1位伊藤のスライダーを右翼スタンドへ、プロ入り1号。騒ぎ立てる報道陣へ向かって「内心うれしいんだから、少し静かにしてください」となだめる一幕も。

4月11日 2試合連続2安打。オープン戦初打席で三振を喫したヤクルト石井のカーブを安打し、「うれしいです」。だが、その後の打席で三振を喫して「何にもなりませんよ。あんなクソボール」と吐き捨てた。

4月14日 対ロッテ戦で5打数無安打。初体験の4三振を喫した。「まだ慣れていないんです」。

4月17日 4打数無安打2三振にも「自信は付いてきました」と強気な発言。だが「アー、きょうはアッタマきた」と自らに怒りをぶつけた。

4月25日 3安打の活躍に末次2軍監督から「合格」サイン。「僕は待つだけです」。

4月30日 故郷・金沢で一軍切符の朗報。「勢いのあるところを見せたいです」。

▼巨人松井が先発メンバーに名を連ね、期待された本塁打はお預けとなったが、第2打席で初安打(二塁打)、初打点のデビューを飾った。巨人の新人打者が先発出場したのは昨年5月3日の伊藤(1番、右翼手、3打数2安打、打点0)以来になるが、打点つきとなると、大森が90年4月10日の阪神戦で初打席、初安打(二塁打)、初打点を記録して以来。

▼ドラフト制後、巨人の高校出身の新人で1年目にデビューしたのは林(66年)山下(67年)淡口(71年)吉村(82年)井上(85年)ら5人いるが、いずれも第1戦でヒットはなく、松井が初めてだ。

※データ、記録は当時のもの