頼れる右腕が帰ってきた。楽天岸孝之投手(35)が4日、ロッテ5回戦(楽天生命パーク)で今季初先発し、5回4安打1失点で初勝利を挙げた。腰痛で1軍マウンドは開幕から2週間遅れたが、針の穴を通す制球力は健在。雨でぬかるむ悪条件もはねのけ、95球の力投をみせた。

   ◇   ◇   ◇

おなじみの青いグラブを、3度はたいた。5回2死一塁。岸はロッテ・レアードを三ゴロに打ち取ると感情を表した。「内容は別にして、結果的にしっかりとゲームをつくることができて、チームが勝てた。ほっとしていますし、よかったです」。勝利投手の権利をつかみ、強さを増した雨の中を小走りでベンチへ戻った。

いつもと同じで、いつもと違う不安を胸に腕を振った。自主トレから腰痛を気にかけながら調整を続け、2週間遅れの“開幕”。「今までも、勝った次の試合までの1週間は常に不安だったりする。それと同じような感じ」。社会人戦、2軍戦と段階を踏み、1軍へたどり着いた。「ただ投げたいという気持ちだけで抑えられる世界じゃない。いろいろ我慢して、中途半端にならずにしっかり行ける状態になるまで調整しようと思った」と、はやる気持ちを抑え、万全を期した。

だからこそ、熟練の持ち味を出せた。最速142キロながら両コーナーを繊細に突いた。初回に先制を許した。3回までは毎回走者を背負った。それでもしのいだ。雨脚が増した4、5回は見逃しを含む3奪三振。「真っすぐはそこそこいいかなと思いましたけど、他は全くダメ。スピードも出てないですし。でも結局『スピードじゃないんだ』という気持ちでコントロールを意識して抑えられた」。経験、実績に裏付けられた意地がある。

5回を乗り越え、100球のメドに届き、牧田へマウンドを譲った。これまでの今季最多の球数は1週間前の6月27日、巨人との2軍戦での85球。「ファームでもまだ100球は投げていない。1軍でさらにストレスもかかる。ちゃんと5回を投げ切れたことはよかった」と胸をなで下ろした。「やっとここまで来られたな、と思います」。リーグ一番乗りの10勝、単独首位。強さが目立つチームにまた1人、存在感のある右腕が加わった。【桑原幹久】