悔いはない。楽天涌井秀章投手(34)が球団&自身初のノーヒットノーランを残りアウト2つで逃したが、被安打1の今季初完封を決めた。08年北京五輪をともに戦ったソフトバンク和田との投げ合いを今季最多132球の熱投で制し、自身初の開幕6連勝。チームは首位攻防6連戦を2つ先勝し、首位ソフトバンクをとらえた。

   ◇   ◇   ◇  

熱気、のち悲鳴-。涌井は移り変わる球場の空気に比例せず、顔色を変えない。9回1死。代打川島が、カウント2-2からの6球目を投じる前に打席を外した。「嫌な予感がした」。6球目。直球でバットを折った。打球が飛んだ遊撃方向に振り返る。「小深田がいない…」。打球は中前へ。初安打を許した。「やっぱりか~」。集まる仲間にも平然と返した。後続を連続三振に切り132球で今季初完封。マウンドに集う小深田へ「あそこ捕れよ」とジョークを飛ばし、ほおをやんわりと緩めた。

乗り越えた重責が原点だ。横浜高からプロに飛び込み今年で16年目。西武、ロッテでエースを担い、3度の最多勝、1度の沢村賞。栄光への道のりで感じた。「松坂(大輔)さんにずっと憧れがあった。こういうふうになりたいなと思ったのがスタート。他球団のスーパーエースたちと投げ合ううちに、負けても勝っても勝敗は先発ピッチャーにつく。最後まで投げることにチームの責任を感じた」。1度立ったダイヤモンドの中心は最後まで守り抜く。プライドだ。

誇りを貫くために汗を流す。侍ジャパンの稲葉監督との会話から学んだ。「外野をやっていた時は体がキレてたけど、ファーストやDHになって、そこから衰えが見え始めたと聞いた。長く現役をやった人の記事でも走れなくなったら終わりだとあった」。人けのない全体練習前、球場のポール間をひたすら走る。去年の終わりから体の柔軟性を維持するために、ウエートトレーニングをやめ、自重に頼った。この試合の最速149キロを最終打者の柳田へ2球投げた。「まだまだいけるぞアピール。150キロを出したいなと思って腕を振ったんですけど全然でなくて。ちょっとがっかり」。スタミナは心配無用だ。

快挙は逃した。「1回はやってみたい。でもおまけみたいなものだから。(西武で現役時代の)西口さんと一緒で9回に打たれるだろうな」と“悲劇”を重ねた先輩と自身を照らし合わせた。「まだまだ伸びしろはある。できることはある。1年ごとに突き詰めれば長いことできるし、ノーヒットノーランも完全試合もできる」。今年で34歳。全盛期はこれからだ。【桑原幹久】