防御率、最多奪三振でリーグトップを走るドクター・ゼロは、スタイリッシュな大学生だった。

10年の秋。ドラフトを翌日に控え、京都市の佛教大にエース大野雄大(当時4年)の前日取材に来ていた。知恩院にゆかりの同大学で、ドラフト1位候補輩出は初めて。1位指名が確実視される会見の場に、紅葉の美しい知恩院の境内を使えないものかな、などとのんびり考えていた。

そこに現れた会見の主役の姿に、待ち受けた報道陣は目を丸くした。大野雄は「だめですか? かっこ悪いですか?」と顔を曇らせたが、正反対だった。

ドラフト候補の前日会見といえば、制服姿か練習着、または学校のジャージー姿などが定番。だが大野雄の姿は、まるで違っていた。履き古し感をわざと出したジーンズにシャツを合わせ、革製のジャンパーをはおったスタイル。ファッション誌から飛び出した読者モデルのような、おしゃれな姿だった。

服装のセンスと野球が結びつくかどうかは、わからない。だが注目のドラフト前日会見に、愛用するファッションで堂々と現れた感性に、伸びやかな成長力を見た。好きなもので勝負する、この先も生きていくと語る姿に思えた。

ドラフト会議当日は、ブレザーに野球部のネクタイという正装。それもまた、似合っていた。ユニホームを着ても、好きな服を着ても、学生の正装も、堂々としていた。中日の単独1位指名を受け、今や中日のエースからリーグを代表するエースに君臨する。マウンドでの立ち居振る舞いを見るたび、ドラフト前日の服選びを思い出す。【元アマチュア野球担当=堀まどか】