前WBC世界ライトフライ級王者・矢吹正道(30=緑)が約6カ月ぶりの再起戦をTKOで飾った。

WBO世界同級4位で24戦無敗(22KO)だった強敵のタノンサック・シムシー(22=タイ)に初黒星をつけた。矢吹は2回2分過ぎ、右カウンターであごをとらえてダウンを奪う。圧力をかけてくるタノンサックに対し、バックステップを踏みながらも的確なパンチを浴びせ続けた。

6回も終了間際にロープに詰めた連打で2度目のダウン。さらに7回、左カウンターからの右ストレートでタノンサックは後頭部からキャンバスに落ち、1分19秒TKO勝ちした。

快勝の裏側でアクシデントがあった。3回にタノンサックのボディーを左腰部に食らい、ラウンドを終えてコーナーに戻ると、トレーナーに「骨盤をやられた」と訴えた。緑ジムの松尾会長が「あいつがあんな弱気なことを言うのは初めて聞いた」と言うほどだった。

続く4、5回と動きに精彩を欠き、パンチも出ずタノンサックに攻め込まれた。しかし「回復はない。根性だけ」と気力だけで6回、7回とど根性でダウンを奪い、試合を終わらせた。松尾会長は「気持ちだけでしょ。たいしたもの」と目を細めてたたえた。

矢吹は3月19日の寺地拳四朗(BMB)とのダイレクトリマッチに敗れ、ベルトを失った。そのまま引退も考えたが「辞めることはいつでもできる」と気持ちを切り替え、再起を決意した。相手をタノンサックにしたのも「強い相手とやってきっちり勝ちたい」という矢吹の希望。退路を断った再起戦だった。

矢吹は試合後、「これ負けたら引退と思っていた。背水の陣で練習をやりきった。最後、しっかりKOできてよかったです」と覚悟を持った戦いだったことを明かし、「フライ級で2階級制覇ではなく、ライトフライ級でもう1度世界王者になります」と宣言した。

陣営も実現へ早速、交渉に動いている。松尾会長は「早いうちにやらせたいわね」と年内をもくろむ。団体にはこだわらず、チャンスがあるところで。今回の会場となった地元三重で初の世界戦プランも浮上してきた。