東前頭6枚目の安美錦(36=伊勢ケ浜)が初日から無傷の7連勝を飾った。同8枚目の松鳳山(31)を、俵に足を乗せたまま引っ掛け。7番全てで決まり手が違う業師の本領発揮で、際どい一番を制した。

 俵の上に右足が乗っていた。流れは完全に相手。「あぁ…っていう感じだった」と、当人ですら負けを覚悟した。だが、そこからが安美錦だった。かかとが蛇の目の砂を払う前に、松鳳山の腕をたぐるように投げ放つ。つんのめる姿を横目で確認。そして、土俵外へ跳びはねた。物言いもない。「出たかと思った。勝ちを拾った。次につながるんじゃない?」。いつも通り、ひょうひょうと笑った。

 引き技を意識して、立ち合いでは前に踏み込めなかった。07年秋場所(8連勝)以来、2度目の無傷の7連勝。「意識はしてないが、どこかにあるんだろう」。幕内在位86場所目のベテランですら陥る「硬さ」。「いつも、そんなんだよ。しょっちゅう勝ちたがってる。人から欲を取ることは難しい」。だが、その強い「欲」こそ、土俵際での強さの象徴だった。

 両膝には一見、痛々しく見えるサポーター。古傷の右膝に加え、おととしにけがした左膝も満足ではない。だが場所前、土俵上での激しい稽古が増えた。実は「体も楽になってきた」。

 変化は「食」にあった。都内の自宅。夕食にはおよそ10品目が並ぶ。不得手だった妻絵莉さん(31)が勉強し、栄養バランスを考えてくれた料理。あまり食べなかった野菜の摂取量が増えた。昨秋の健康診断では肝臓やコレステロールの値が初めて正常に戻った。朝もすっきり起きられる。体が変わってきた。「だから稽古でも番数をやるようになった。相撲を取れるのも嫁さんのおかげだよ」。

 2月には、血液状態がよい力士だけに来る献血の協力も、関取になって初めて依頼された。黒1つない7つの白星は、絵莉さんへのホワイトデーだった。

 稽古場で幾度もアドバイスする照ノ富士も全勝を守る。自身の8連勝も新関脇。毎日「オレを超えるんじゃねえよ」とからかうが、本音は違う。部屋の勢いも追い風。業師の真骨頂は、止まらない。【今村健人】