常人離れした力強さはもちろんだが、巧みな技の数々も大相撲の魅力だ。今年、最も多くの決まり手で土俵を沸かせたのは、安美錦(37=伊勢ケ浜)だ。その数「17」。2位の豪栄道を1差で振り切って、2年ぶりの「彩多賞」に輝いた。

大相撲夏場所5日目 金星を逃し悔し涙を流す安美錦
大相撲夏場所5日目 金星を逃し悔し涙を流す安美錦

 象徴的だったのが、春場所。毎日違う決まり手で、初日から7連勝した。10日目の徳勝龍戦で右膝を痛めて途中休場したが、十分な存在感を見せた。鮮やかな技を決めて白星を挙げても、土俵上では感情を表に出さない。「まあ、ただ一生懸命やった結果だからね」。業師として面目躍如の賞も、サラリと受け取った。

 そんな男が、今年1度だけ涙したことがある。夏場所5日目の白鵬戦。肩透かしで最強横綱の体勢を崩し、出し投げを仕掛け、さらに右からの投げで背後を取った。金星目前だったが、体を急回転させた白鵬の動きに足が流れて惜しくも敗れた後、支度部屋で声を震わせ、泣いた。場所直前に、15年以上付け人だった元幕下扇富士が引退。相棒とずっと考えてきた策を全て出し尽くしたからこそ「勝ちたかった」と、泣いた。

 「こういこうと思っても、決まることはほとんどない。一生懸命やっているだけだし、自分の型もないから」。型がないからこそ、激しい攻防の中でも次々と技を繰り出す。流れるような安美錦の相撲は、まさに経験と稽古の結晶。ただ、数々のけがにも負けない業師の根底には、いつも熱い心がある。【木村有三】


決まり手数上位


力士名技数
1安美錦17
2豪栄道16
3白鵬15
4嘉風14
4高安14
6照ノ富士13
6栃ノ心13
6旭秀鵬13
9徳勝龍12
9宝富士12