11月の大相撲九州場所は、21年ぶりに全15日間で大入りをマークした。だが、一年納めの土俵は現役横綱の暴行問題という不祥事が大きな影を落とした。回復した相撲人気や新弟子獲得など、影響が多方面へ及ぶことが懸念される。

 今年は九州場所を含め、年6場所の全90日間で満員御礼となる1996年以来の盛況ぶりだった。その中で発覚した元横綱日馬富士関の暴行問題。協会幹部は「事態が長引けば(イメージは)悪くなるだけ。来年はどうなるのだろう」と危惧する。

 3日からは冬巡業が始まるが、早くも不安な点が出ている。巡業を主催する勧進元の一人によると、問題が発覚してから前売り券の売れ行きが落ちた。「水を掛けられた。緩みもあって、人気が高まったゆえのスキャンダルじゃないか」と指摘。貴乃花巡業部長(元横綱)が冬巡業に参加しないことを報道で知るなど、日本相撲協会の対応にも不信感を募らせる。

 将来を支える新弟子の入門者数も不安視される。角界では2007年に力士暴行死事件で激震が走った。その後も11年の八百長問題など不祥事が続き、12年の新弟子数は年6場所制が定着した1958年以降最少の56人だった。その後、盛り返した中で、今回のダメージに見舞われた。

 相撲の強豪高校のある指導者は「保護者から、大相撲はそんな世界なのかとの声はある」と認める。スカウト活動を進める若手師匠は「親御さんにしっかり説明しないといけない。不安を消し去るのは難しいと思うが、この問題で若い人の夢を摘まないようにしないといけない」と困惑した。

11月29日の引退会見で「人々に感動、勇気、そして希望を与えるのが相撲」と口にした元横綱日馬富士関。愛する土俵を揺るがせた代償は重い。