初優勝を果たした前頭8枚目の朝乃山(25=高砂)が、世界の「アサノヤマ」になった。優勝は前日14日目に決めていたが、この日の表彰式では、大相撲を初観戦したドナルド・トランプ米大統領から、新設の米国大統領杯を直接受け取った。取組は小結御嶽海に寄り切られて3敗目を喫したが、令和初の優勝に加え、同杯の初代受賞者としても歴史に名を残し、相撲の象徴的存在として世界に発信された。

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「アサノヤマ、ヒデッキ!」。表彰状を読み上げるトランプ大統領から名を呼ばれた朝乃山は、一段と背筋を伸ばした。初めて立った表彰式の土俵で、目の前に187センチの自身よりも大きい米大統領。どんな名力士も経験したことのないシチュエーションに、緊張しないわけがなかった。右手で表彰状を手渡された際には声を掛けられた。だが「おめでとう、かな…」と、言語が日本語だったか英語だったかも覚えていない。それでも「富山の人間山脈」が一躍、「世界のアサノヤマ」へ。「うれしいです」と自然と声は弾んだ。

すべてが異空間だった。当初、トランプ氏は最後の3番だけ観戦する予定だった。だが前日に優勝したことで、朝乃山の取組を見るため、最後の5番を観戦した。安倍首相と、それぞれが夫人を伴って入場。前の取組が終わってから通常の2倍以上の時間を要した。「トランプ大統領が来ているのでピリッとしていた」と、厳重な警備態勢がかもし出す、独特の緊張感に冷静さを欠いた。結局、何もできず御嶽海に完敗。歯を食いしばり、左目をつぶって悔しがった。「一番悔しいのは、トランプ杯をもらう立場で目の前で勝てなかったこと」と唇をかんだ。

大統領杯は当初、土俵上に置かれた台の上に、白い布に掛けられていた。布が取られると、上部にワシがあしらわれた銀色のトロフィーが姿を見せた。その演出だけで圧倒されかけたが、表彰状を手渡された後は握手を求められた。「ガッときた(笑い)」と、力強い握手にまた驚いた。ただ、どんな言動にも「ありがとうございます」と、日本語で返した。ホワイトハウスによると、高さ137センチ程度、重さ約30キロの巨大トロフィーを軽々と受け取り、力士の存在感も示した。

この様子は、間違いなく世界中に伝えられる。初優勝だが、世界では全力士の代表という扱いだ。7月の名古屋場所は新三役の可能性も十分。「ライバルを変えて、上の人をライバルにして稽古に精進する」。大関貴景勝や15場所連続三役が確実な御嶽海らへと“アサノヤマ”が挑戦状をたたきつけた。【高田文太】