行司の最高位、第39代木村庄之助(64)は、定年前最後の本場所も、千秋楽まで「いつも通り」を徹底した。10月30日に65歳の定年を迎えるため、この日の結びの一番が最後。横綱大の里と大関安青錦による相星決戦後、花道を引き揚げる際には、長年の労をねぎらうため、花束を手にした観客が近づいてきた。だが庄之助は、花束を受け取らなかった。「いつも通り」の思いに加え、常々「主役は力士」と話すモットーを貫いた格好。少しでも目立つことはしたくなかった。

着替えて帰路に就く際には「これで最後という実感はないですね。全日本力士選士権大会(10月5日、領国国技館)までやって、みんなが翌日からの巡業のために国技館を出発した後、一緒に行かずに帰宅した時が、1番実感がわきそうですね」と、笑って話した。続けて「今は無事に、15日間、終わったことにホッとしています。本当にいつも通りなんです」と、落ち着いた口調で話した。この日、家を出発する際も「家族も普通。いつも通りでした。ただ、私が『いつも通り』を心掛けているので、家族はあえて、そうしてくれたのだと思います。感謝ですね」と、再び笑った。

庄之助にとって行司とは-。「行司は常に冷静でいなくてはなりません。土俵の1番の責任者。力士が土俵に上がって、勝負がつくまで、冷静に、責任を持って務めなければならないと思っています」。その最高位である「庄之助」の看板は「重たかったですよ。今まで、多くの先輩方が必死に務めてきたので。私が泥を塗るわけにはいかないので」と、言葉に力を込めて話した。庄之助に次ぐ式守伊之助と2人しかいない立行司は、差し違えたら切腹するという覚悟があることを示す意味で、懐に短刀を忍ばせている。形だけでなく、そのぐらいの覚悟で臨んでいたのは、強い口調から明白だった。

最後に今後についてたずねると「何も決まっていないです。それが1番不安かもしれないですね」と、再び穏やかな笑顔を見せて話した。後先考えず、日々、全力で臨んできた、まじめな性格を物語っている。長く番付の書き手を務め、歴代庄之助の中でも、屈指の「美しい字」が特徴だった第39代。けっして普通ではない「いつも通り」を続け、土俵を守り続けた行司人生だった。【高田文太】

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