「インタビュアー泣かせ」という言葉がある。極端に口が重かったり、質問をそらす傾向があったり…。

 そもそも取材を承諾しているのだから、その人に悪気があるわけではない(と思う)し、それも1つの個性である。どんな人にでも本音を語らせるのが、本来こちらの仕事には違いないのだが、正直に明かせば、話の掘り下げに行き詰まり、質問を流してしまうことが、まれにある。

 「-泣かせ」の反対語は思いつかないが、こちらの気持ちで表現すれば、「インタビュアー冥利(みょうり)に尽きる」となるのだろう。限られた経験の中でいうと、私が「-冥利」と感じた第1位は、桃井かおり(64)である。

 一定の節度をもって向き合えば、質問に制限はない。質問をそらすこともない。真正面から答え、そこにはさりげないユーモアがからめてあったりする。記事にしやすい中身があって、笑いもある。

 黒澤明監督の「影武者」(80年)に出演した頃から、取材機会は何度もあったのだが、いつも書きたくなることが多すぎて取捨選択に苦労するのが、桃井の記事だった。世間に「恋多き女」のイメージが定着してきたのも、あけすけな発言の結果に違いない。

 かつて作家の男性と、ある女優との間で浮上した「三角関係」について、以前のインタビューで「私にとっては終わっている。ベトナム戦争は終わったって感じ」と明かしている。話すにはためらいがあったはずの三角関係を、戦争の泥沼に例えて、激しいやりとりを印象付けた。

 先日、十数年ぶりにインタビューする機会があり、「かおりトーク」の健在ぶりがうれしかった。

 近況では、幼なじみで1歳上の音楽プロデューサーと昨年結婚し、現在は米ロサンゼルスに住んでいる。「けっこう、これまでも男と暮らしているようなイメージがあるけど、男性とちゃんと一緒に住むのは今回が初めてですから」。

 男性との同居、離別を繰り返してきたような思い込みがあったので、一番驚いたのが、実はこのコメントだった。何度取材しても、この人には必ず意外な発見がある。

 厳格で女優デビューにも猛反対したといわれた国際政治学者の父、桃井真氏(享年81)と芸術家の母、悦子さんと12年前まで同居していたというのだ。2世帯住宅で独立した居住空間はあったものの、食事をする場所は一緒だったという。「高校時代は風紀委員で茶道部ですから。私、いわゆるいい子だったんですよ」とも。仕事の関係ですれ違いの多い父親とはメモでやりとりした。

 タバコをくゆらす気だるそうなイメージが強烈だった20代には、こんなやりとりがあったという。

 桃井メモ「どうしてタバコを吸っても何も言わないんですか?」

 父メモ「タバコを吸うようになってから、よく歯を磨くようになったと聞いております。それはそれでいいんじゃないですか」

 ほのぼのとした父娘関係が浮き上がる。一方で、交際中の男性を家に連れてきて紹介すると「籍入れるわけじゃないんだろ」とそっけなく言われたこともあったという。「まあ私はいつも悪魔のような人が好きだったから。だって悪魔って魅力的じゃないですか」。父親には受け入れにくいタイプだったのだろう。

 実は、真氏はそのころから心に「本命」を定めていたようだ。

 夫となった男性の父親は外務省勤務で真氏とは長年親友の間柄だった。桃井は「ダンナさんは、もともと父の大のお気に入りだったんです。(再会できたのは、その直前に亡くなった)父が連れてきたような気がします」と振り返る。

 戦前は中野学校、戦後は防衛庁防衛研究所に入所後、ハーバード大学に派遣されるなど軍事アナリストとして「エリート街道」を歩んだ真氏は、桃井にとって想像以上に「大きな存在」だった。

 「ダンナさんはものすごく性格がいいんです。善良な人を好きになったの、今度が初めてだから」と話す時は、さすがにちょっと照れくさそうだったが、父親の見立てが正しかったことを素直に認めているのだと思った。

 自在に羽ばたいているように見えながら、ぶれない芯(しん)があり、どこかに品格が漂う理由にあらためて触れた思いがする。【相原斎】