新型コロナウイルス感染拡大の影響で3月中旬から閉鎖されていたアメリカ最大手映画館チェーンAMCや同じく大手のリーガル・シネマズが先週末から一部地域で営業を再開させ、パンデミック後初となる大規模映画「アンヒンジド」が公開されました。

ラッセル・クロウがキレたサイコパスのあおり運転手を演じた本作は、映画館が再開している欧州など国外ではすでに公開されていましたが、満を持して北米約1800館での公開が21日からはじまり、待望のハリウッド再開第1号となりました。

映画館のネオンサインが消えて以来5カ月ぶりとなる週末のボックスオフィスの統計も発表され、週末3日間で400万ドルの興行収入を記録。ロサンゼルスやニューヨークなど大都市では依然として映画館の再開が認められていない中で、驚くほど強力なスタートを切ったとUSAトゥデイ紙が伝えるなどハリウッドにとって久しぶりの明るい話題となっています。

一方、新作映画の撮影も徐々に再開しているものの米国内での感染拡大や国外での第2波への警戒から再開への道のりは厳しいものとなっています。ニュージーランドでは「アバター」の続編が、ドイツ・ベルリンでは「マトリックス」シリーズ最新作の撮影が再開されるなど大作映画の撮影も始まっていますが、イギリスで7月上旬に約4カ月ぶりに撮影を再開させた「ジュラシック・ワールド」シリーズ最新作「ジュラシック・ワールド/ドミニオン」のスタッフが新型コロナウイルスに感染したことが判明。予定されていたマルタ島でのメインキャストの撮影が中止になりました。

マルタ島で再び感染が拡大していることから安全面を考慮してメインキャスト抜きで撮影することが決まり、主演のクリス・プラットやブライス・ダラス・ハワードらは現地入りはせずにイギリスで撮影を続け、CGなど映像技術を駆使して完成させることとなったようです。製作するユニバーサル・ピクチャーズは、出演者やスタッフの定期的なPCR検査や宿泊するホテルの借り上げ、撮影前のセットの消毒、150カ所の手指消毒ステーションの設置、撮影セットのゾーン分けなど感染予防対策に900万ドルを投じたと伝えられていますが、それでも完全に感染を防ぐことは難しかったようです。

そんな中、ハリウッド映画やドラマのロケ地として人気のカナダ・バンクーバーでもようやく撮影の再開が認められることになったと伝えられています。同地で最初の撮影再開が予定されていたABCテレビの医療ドラマ「グッド・ドクター 名医の条件」は、現地でのPCR検査体制を巡って、ハリウッドのメジャースタジオや組合が取りまとめたガイドラインと、現地の組合のガイドラインとの間に開きがあったことから再開が中止されたと伝えられていましたが、このほど条件面で合意したことで近々撮影が始まる見込みとなったようです。

撮影が再開されても今後しばらくは大人数のエキストラを使った撮影やラブシーンなど俳優同士が接触する撮影は難しいでしょうし、メイクも俳優自身が行い、音声担当者は俳優と距離を保つためにかなり遠くからマイクを伸ばして撮影するなど、さまざまな制約が課せられることになります。また、撮影現場への立ち入り人数を制限する必要もあることから、大がかりな撮影も当面は難しいかもしれません。

それでもここロサンゼルスでもマスク着用やソーシャルディスタンスの確保、さらにこれまでビュッフェ形式だった食事は個々にパックされたものを配給し、水など飲み物もクリーンゾーン外の指定された場所でしか飲めないなど、厳しい感染予防策を講じながら撮影が徐々に再開されています。手探り状態ながらも少しずつ日常を取り戻しつつありますが、映画の撮影現場はパンデミック前の日常に戻るにはまだまだ時間がかかりそうです。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)