12月は新作歌舞伎の対決となる。歌舞伎座は夜の部で坂東玉三郎主演「本朝白雪姫譚話」、新橋演舞場は昼夜通しで宮崎駿監督のジブリ作品をもとにした尾上菊之助・中村七之助の「風の谷のナウシカ」、国立劇場はチャプリンの名作映画「街の灯」をもとにした松本幸四郎主演「蝙蝠の安さん」と、3作品が上演される。

グリム童話でおなじみの「白雪姫」をもとにした「本朝白雪姫譚話」は過去に何度も企画として上がったが、実現しなかった。玉三郎は「俳優祭でやったから、差別されているのよ」と冗談交じりに話したが、確かに、「白雪姫」は、歌舞伎俳優が一堂に会し、普段と違う役を演じる舞台などさまざまな企画で多くの観客を集める「俳優祭」の人気作。これまで4回上演され、玉三郎も白雪姫を演じている。

玉三郎は「俳優祭で白雪姫を演じて、面白いと思った。でも、今回の『白雪姫』は俳優祭のものとは全然違います」と強調した。新しく書き換えており、「時代も天正時代に移して、さらっと見られるようにしました。鏡の精(中村梅枝)と、母親の野分の前(中村児太郎)との関係も意味あるように書いてもらいました」。

7人の小人は妖精となり、子役が演じる。「しっかりした子役たちで、声がきれいで、とてもいいんです」。オペラ「魔笛」から歌のシーンを取り入れたり、玉三郎、梅枝、児太郎の琴の演奏もあるという。「音楽劇にしようと思ったんです。いい意味で新鮮じゃないといけないし、幕が開くと、全然違う世界を見せたい。歌舞伎座に来るお客様を納得してもらう舞台にしたい」と意気込んでいた。

「蝙蝠の安さん」も幸四郎の長年の思いが実現した。二十数年前、13代目守田勘弥の写真集を見ていたら、「源氏店」の蝙蝠の安と似た扮装(ふんそう)姿に目が引かれた。「これはなんだろう」と調べたところ、「街の灯」をもとに、1931年(昭6)に13代目勘弥が主演した新作歌舞伎「蝙蝠の安さん」だった。「あの時代に映画を歌舞伎化しようと思ったことに驚いた。歌舞伎のかぶく精神そのもので、上演台本を読むと、面白く書かれていた。いつか上演したいと思うようになった」と明かす。

実に88年ぶりの上演となるが、今年はチャプリン生誕130周年で、命日である12月25日にも上演される。「花売り娘のお花を演じる坂東新悟さんのおじいさまの坂東好太郎さんも『蝙蝠の安さん』に出演していました。これは計画してできることではありません。今がやるときだったんだと実感しています」。映画のボクシングのシーンは相撲に置き換え、チャプリンのトリッキーな動きにも挑むという。

新作歌舞伎対決に、幸四郎は「『白雪姫』や『風の谷のナウシカ』に負けないように、いや勝つつもりでやります」と言い切った。ジブリ人気もあって、チケットの売れ行きでは「風の谷のナウシカ」が先行するが、歌舞伎座は2日、国立劇場は4日、そして演舞場は6日に幕を開ける。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)