深夜帰宅したところ、自宅の郵便受けに1通の不気味な封筒が入っていた。表には住所の記載や切手などがなく、「○○様」と筆者の名前のみ肉筆で記されていたのだ。

部屋に入り、封筒をさっそく開けてみると中には、達筆な文字で書かれた手紙が封入されていた。さらに、本来、筆者宛てに届いていたはずの「開封済み郵便物」も同封されていたのだ。

「な、なんだこれは…」と一瞬、何者かの手の込んだ嫌がらせかと思ってしまったのだが、手紙を読んで状況を理解できた。

その封筒を投函し、中にあった肉筆手紙を書いた人は、マンション同フロアの隣人で、時折、筆者と廊下で立ち話やたわいもない世間話をする程度の関係の80代淑女だった。あるジャンルにおいて高名な先生という。

ちなみに、同封され、かつ開封されていた筆者宛ての郵便物は、中には「個人情報」がたんまり記されており、筆者ごときのデータなどたいした「個人情報」ではないとはいえ、はっきり言ってこのご時世、他人にあまり見られたくないものであるため、正直、やや“戦慄”した。

どうやら、隣人である同女性宅の郵便受けに、間違えて筆者宛ての当該郵便物が投函されたのが原因らしく、それを同女性はそのまま他の複数の投函物とともにピックアップして部屋に持ち帰り、自分のものかと思って深く考えずに開封してしまった後、「あ、隣人のHさんの郵便物だった」と気づいたようだ。

というのも、その手紙には、要約すると「いつも郵便物が多いため、ついウッカリ開封してしまいました。お詫びいたします」という趣旨の謝罪が、丁寧な語調で記されていたのだ。

とりあえず気持ちを落ち着けるためルノアールで定番のドリップアイス(※写真と本文はそれほど関係ありません)
とりあえず気持ちを落ち着けるためルノアールで定番のドリップアイス(※写真と本文はそれほど関係ありません)

何でもかんでもメールやLINEなどで機械的にぶっきらぼうに伝えてくる人が増え、「できるだけ直接会話でコミュニケーションし、話し方や口調などでニュアンスも含めたやりとりをしたい派」の筆者としてはほとほと困っているのだが、そうした中、久しぶりにいただいたこの「肉筆の手紙」を見て、妙に心が温まった感じがしたのも事実。

筆跡や筆致、筆圧などが分かる「肉筆の手紙」には、その人の人柄などがにじみ出ている気がする上、「時間をかけて書いてくれた」というある種のぬくもりめいたものも感じられ、なんとも味わいがあるのだ。

…なんて感慨深げに語ってしまったが、よく考えてみると「個人情報」を丸々見られてしまったことには違いない。

普段、さんざん情報危機管理に務めていても、郵便物配達業者による「1つ隣の郵便受けに投函してしまった」という“アナログ”的なミスで、一瞬で個人情報ダダ漏れになってしまうというパターンもあることを、「心温まる手紙」で思い知る形となった。

とはいえ、こればかりは気をつけようにも気をつけようがないから「事故」として割り切った。

【文化社会部・Hデスク】