大量破壊兵器の存在を大義名分に米ブッシュ政権が突き進めたイラク戦争は、後に大義そのものを否定されることになる。昨年公開の「記者たち 衝撃と畏怖の真実」(ロブ・ライナー監督)は開戦に疑問を投げかけたローカル・メディアの孤軍奮闘を描いた。今作は、共同歩調を取ったブレア政権の英国を舞台に「記者たち-」のスタンスで、長いものにまかれなかった1人の女性の実話である。

開戦前の03年、GCHQ(政府通信本部)に、米国家安全保障局(NSA)から1通のメールが届く。イラク戦争の大義をでっち上げるためのあからさまな工作。盗聴が業務とはいえこれは正義なのか。淡々と進む作業に勤務3年目のある女性が心を乱す。そんなことをしそうもない彼女が公務秘密法に問われる危険を冒し、メディアにリーク。当局のリーク元捜しに追われる立場になってしまう。

キーラ・ナイトレイがもの静かな女性の「秘めた勇気」を目と口元にみなぎらせる“巧演”だ。5年前、ドローン戦争の倫理的問題をえぐった「アイ・イン・ザ・スカイ」のキャヴィン・フッド監督が、今回も社会的題材をエンタメに仕上げ、留飲が下がる幕切れだ。

【相原斎】(このコラムの更新は毎週日曜日です)