昨年の大阪・関西万博でテーマ事業プロデューサーを務めた河瀬直美監督の、22年の東京五輪公式記録映画「東京2020 SIDE:A、B」以来4年ぶりの新作となった。描いたテーマの1つは、脳死提供者(ドナー)が先進国で最低レベルなど、日本ではなかなか進まない臓器移植だ。
パリから神戸の臓器移植センターに来た医師コリーは、小児移植医療の促進に取り組む。ドナーを待つ子どもと家族を取材した映像を上映し、議論の場を設けるも、人手不足は深刻で日本人医師は目の前の命を救うことに精いっぱい。欧米と異なる日本の死生観、倫理観にも壁を感じ意識、体制の改善は困難だった。
ルクセンブルクの俳優ビッキー・クリープスが、日本人とぶつかる主人公を演じたことで異文化比較ができ、日本の移植医療における課題が明確に描かれる。河瀬監督は18年「Vision」で仏女優ジュリエット・ビノシュを起用も、エッセイストが文化と言葉の壁を越え日本人と心を通わせる物語で異文化比較にまでは至らなかった。世界で活躍する同監督にとっても今作は1つの挑戦だろう。
日本に1つの課題を提起する、今作の公開2日後の8日が、衆院選投開票となったことも何かの因縁だろうか…。自身の3歳下の弟を心臓の病で亡くしている永瀬正敏が、心臓移植を待つ少年のドナーとなる脳死した少年の父を演じた芝居は、迫真などと言うひと言で語りきれるものではない。もう1つのテーマである、寛一郎が演じた迅が恋人コリーの前からいなくなる失踪含め、今の日本に多くのものを投げかけ、考える契機になりうる1本だ。【村上幸将】
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