9日に行われた脚本コンクール「第42回創作テレビドラマ大賞」(主催・日本放送作家協会、NHK)授賞式のパーティーで、日本放送作家協会さらだたまこ理事長が、最近の応募作の傾向について語ってくれた言葉です。

 「創作ラジオドラマ大賞」も含めた各賞とファイナリスト計16作のリストを見ると、ひきこもり(4作)、親の虐待(3作)、いじめ(2作)などのエッセンスが大幅にかぶっており、ほかにも「闘病」「独居老人」「介護」などのラインアップ。不幸描写が定番化している現状に驚かされました。作風も、誰かとの出会いで心の傷が少しだけ癒えて生きる力を得る、というひっそりした世界観のものが多い印象です。

 「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」は「フジテレビヤングシナリオ大賞」「WOWOWシナリオ大賞」などと並ぶ5大コンクールのひとつとして知られ、大賞はいずれもNHKで作品化されます。古くは大河ドラマ「峠の群像」(82年)の脚本を手掛けた冨川元文氏や、最近では朝ドラ「ゲゲゲの女房」(10年)、大河ドラマ「八重の桜」(13年)を手掛けた山本むつみ氏らを輩出しています。

 さらだ氏によると、暗いテーマはアフターバブルを境に顕著になったそうです。トレンド狙いで競合しているのではなく、「応募者は自分が抱えている問題、周囲の人に起こっている問題を書くことが多いので、自然とそうなる」と語ります。

 背景には、応募者の主力層が40代に上がっている現状もあるようです。同じ「アルバイトをしながら脚本家を目指す苦労」でも20代とでは受け止め方が違う上、「介護」などのテーマも身近になってきます。さらだ氏は「介護のテーマは非常に多い。みんなアルバイトをしながら家でこつこつ苦労して書いていて、ひきこもりや、働き方問題に目を向けた作品も多い。毎年1000件前後の応募がありますが、テーマはほとんどそれらで占められます」。

 大賞「週休4日でお願いします」を受賞した高橋理恵子氏(東京都在住)も40代。社員食堂で栄養士として働きながら応募活動を続けており、かつて製薬会社で月100時間以上の残業に見舞われていた体験と思いを主人公に投影させています。「ハッピーな人を書けない」(さらだ氏)という最近の傾向の中では珍しいラブコメ路線での受賞。「介護でも貧困でも病気でもないのですが」と恐縮気味にスピーチし「普通だけど、煮詰まっている人を書きたかった」と語りました。

 さらだ氏は、暗いテーマがかぶる現状に「正直『またか』という思いはありますが」としながらも「まだ登竜門の人たちですから、自分の世界からうんと離れたことを書くのは難しく、リアリティー不足なことを書いてもうそっぽくなるだけ。今、自分が置かれている状況を書くのは仕方のないこと」。応募者のボトム層が40代にシフトしていることにも肯定的。「中園ミホ、岡田恵和ら脚本業界のトップを走るのはアラ還世代であり、受賞者世代は一回り若い40代半ば。10年前に比べたら可能性は高いというか、新人でガンガン挑んでいる実態もあります」。

 大切なのは「成長を描けるかどうか」とし「『なんでこんな目に』という思いを抱えた人が、誰かと激しくぶつかり合うことで何かに気付いて次の行動に出る。暗くても、人間が変わっていく魅力が描けていることが大事」と語っています。

 ちなみに、バブル期の応募作はかなりバラエティーに富んでいたようです。「明るい作品のほか、もっと文学的なものも多かったですね。あとは、外国を舞台にしたものや時代劇など、お金のかかるものも多かったです」。やはりエンタメは景気や世相を反映しますね。いろいろ納得です。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)