19年3月期の決算発表月と重なった5月の民放定例会見で、トップを争う日本テレビとテレビ朝日がそれぞれの事情で渋い表情をみせた。狙い通りに売り上げ好調だが5月の週間視聴率3冠を逃した日本テレビと、週間1位の勢いがありながら減収減益のテレビ朝日。視聴率をめぐる戦略の違いが一長一短の結果に表れた。何をもって1位なのか。令和の放送界はいよいよ過渡期を迎えている。

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視聴率と業績が必ずしもイコールにないねじれ現象の背景のひとつに、日テレとテレ朝の視聴率戦略の違いがある。日テレが追っているのは「個人視聴率」、テレ朝は「世帯視聴率」という違いだ。

ビデオリサーチが発表し、私たちがふだん目にする視聴率とは「世帯視聴率」のこと。どれだけ見られたかを屋根単位で計測しているので、テレビを見ている率が高いシニア層にアピールすれば数字は上がる傾向にある。“視聴率3冠”も“春ドラマ視聴率1位”も、世の中の視聴率ニュースは現状これ一択であり、ここで民放1位を狙っているのがテレ朝だ。4月期のドラマでいえば、シニア層に強い「緊急取調室」「特捜9」「科捜研の女」を並べて民放連ドラ14作品中トップ3を独占しているのもその流れだ。

しかし、「高齢者相手に視聴率をとっても、もはやスポンサーのニーズはそこにはない」(民放関係者)というのが営業の現状。企業が重視するのは、消費のかなめとなるファミリー層、若者層であり、シニア層は人気がない。テレビ朝日ホールディングスの19年3月期決算は、売上高が前年比0・3%減の3017億円、純利益は前年比18・7%減の128億円。ほかの在京キー局が増収を確保する中、唯一の減収減益となったのは象徴的だ。

28日の定例会見では、「視聴者層の高齢化」と減収減益の関係について、武田徹専務が「はっきり言って、そういう要素がまったくないとは言えない。わが社はどちらかというと高齢層に支持されるソフトが多いので」と言及。CM出稿が減った主なジャンルとして、不動産、住宅設備、自動車、保険などを挙げた。いずれもファミリー層を狙いたい業種だ。

会見では、5月20~26日の週間視聴率で全日(午前6時~深夜0時)、ゴールデン(午後7時~同10時)プライム(午後7時~同11時)ともに日テレを抜いて3冠王を達成したことも発表。全日7・7%(日テレ7・1%)、ゴールデン11・6%(同10・7%)、プライム12・0%(同10・3%)と、かなりの差をつけている。明るい話題であるのに、うれしさも中くらいのような様子が印象に残る。

一方、日テレが重視している「個人視聴率」は、屋根の下の「誰が」見ていたかにこだわったもの。性別、年齢別の数字を独自に算出した営業用のデータで、外に出ない数字だ。とにかくファミリー層(日テレの場合は13~49歳と定義)の数字が最優先の番組作り。1月からは社内表彰も主にここの個人視聴率で行っている。

実際ファミリー層に強いので、日本テレビホールディングスの決算は売上高4249億円(前年比0・3%増)、純利益387億円(同3・5%増)の増収増益。このご時世に「レギュラー番組の広告料の引き上げに成功している」(石沢顕専務)という。

しかし、世の中に出る指標は、シニア1人暮らしでも1世帯にカウントされる世帯視聴率のみ。ネットニュースで受け手が目にするのはあくまでも「テレ朝3冠」「日テレ2位に陥落」の方であり、落ち目に受け取られかねないのはつらいところだ。世帯視聴率は眼中にないとはいえ、5年連続視聴率3冠は大きなプライドであり、大久保好男社長は「残念ながら3部門いずれも2着だった。4月以降厳しい戦いになっている」と悔しさを隠さない。増収増益という好結果でも大喜びとはいかない会見風景が、テレ朝と似ているのは皮肉な話だ。

ぶっちゃけ、民放の社内指標はすっかり個人視聴率に移っている。しかし、表に出して「視聴率」として評価を受けることができるのは世帯視聴率のみ。世帯をとるとスポンサーの数が減り、個人をとると数字が減る。文字通りのねじれ現象で、令和の放送業界はややこしいスタートである。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)