10月期の秋ドラマが出そろった。シャーロックもの、30分2本立て、13年ぶりの新作など意欲的な挑戦作が多いが、全体的な見応えにはばらつきがある印象だ。「勝手にドラマ評」40弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(シリーズもの、深夜枠は除く)。

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フジテレビ月9ドラマ「シャーロック」
フジテレビ月9ドラマ「シャーロック」

◆「シャーロック」(フジテレビ、月曜9時)ディーン・フジオカ/岩田剛典/佐々木蔵之介

★★★★★

原作に約70ある“語られざる事件”をモチーフに月9オリジナルを創作。ディーン・フジオカの無国籍な雰囲気が令和の東京をミステリアスに演出し、ノーブルで大胆不敵、時々おちゃめという難解キャラが生き生きと疾走する。ワトソン役の岩田剛典がうまく演出され、振り回される常識人パワーに絶妙な体温。「気にするな」「気にするよ!」のバディ感も楽しい。C調で抜け目ないレストレード警部に佐々木蔵之介がドはまりし、男3人が絵になる。世相を反映した3話の地面師ミステリーはゾワッときた。物語にいざなう毎回のタイトル書きもしゃれている。描きたいシャーロック像と志をチームで共有できており、この座組みで自由にやってほしい。

テレビ東京ドラマBiz「ハル~総合商社の女~」
テレビ東京ドラマBiz「ハル~総合商社の女~」

◆「ハル~総合商社の女~」(テレビ東京、月曜10時)中谷美紀/藤木直人

★★★☆☆

総合商社の部長補佐にヘッドハンティングされたシングルマザーの企業改革。ラーメン事業や病院買収など、ビジネスが多岐にわたる総合商社は1話完結に合う。主人公が女だと男性陣の無視と薄笑いから始まるテレ東流が今回も。「新米女に振り回されるな」「女はいいよな気楽に辞められて」。おいおい描けばいいハードルでいちいち流れが止まるのが残念。せっかくさっそうとしたヒロインなのだから、1話は直球のビジネスドラマで進めてほしかった。上司が優しい元ダンナという守られ感と、賢い子供が取り持つ再びの恋バナ。公私が引くほど充実。中谷美紀と藤木直人の「できしな」コンビが安定。話のまとまりはあり、見ていてストレスはない。

フジテレビ系ドラマ「まだ結婚できない男」
フジテレビ系ドラマ「まだ結婚できない男」

◆「まだ結婚できない男」(フジテレビ、火曜9時)阿部寛/吉田羊/深川麻衣

★★★★☆

偏屈な独身建築家、桑野が13年ぶりに復活。弁護士吉田羊、女優深川麻衣、元主婦稲森いずみら新しい女優陣を迎え、今度は人生のパートナーを見つけることができるのか。多様化の時代にこのテーマも古く感じられるが、キャラとフォーマットがしっかりあるので、真空パックを開けたようなクオリティーで楽しい。パグ犬、棟梁(とうりょう)、ポイントカードなどの懐かしいくだりの一方で、「どんな仕事でも必ず辞めたいと思う時がくる。でもそこで踏みとどまれたら本当の第1歩」とか、53歳らしい成長も描いて好感。女優と歩いて「こうすれば写真を撮られてもすれ違ったようにしか見えない」に爆笑。塚本高史、尾美としのりらオリジナル組が偉大。

◆「G線上のあなたと私」(TBS、火曜10時)波瑠/中川大志/松下由樹

★★★★☆

バイオリン教室で出会った初心者3人の人間模様。婚約破棄された元OL(波瑠)、禁断の恋に悩む大学生(中川大志)、ゲスな夫とその母に疲れている専業主婦(松下由樹)。本来なら接点がない人たちの交流が新鮮で、3人の行き詰まりが少しずつチューニングされていく連ドラの醍醐味(だいごみ)。敷居の高いお話かと思ったら、悩める人たちの精いっぱいのド根性で共感できる。46万円という中途半端な慰謝料に逆に吹っ切れるヒロインのリアル。松下由樹の悔し泣きも、「泣いてはダメですよ。楽しくしてればこっちの勝ちだ」の中川大志も染みた。丁寧なクオリティーは今期トップだが、主人公より男子キャラを中心に話と魅力が展開しているのが気になる。

◆「同期のサクラ」(日本テレビ、水曜10時)高畑充希/橋本愛/新田真剣佑/竜星涼/岡山天音

★★★☆☆

忖度(そんたく)ゼロのロボキャラ女子が周囲を変える遊川和彦脚本の定番。「故郷の島に橋をかける」ためゼネコンに就職したサクラと、同期入社4人の10年を1話1年で描く。1話1年は、自身の「十年愛」(92年)のフォーマット。「大江千里が超高速回転するメリーゴーラウンドで吹き飛ばされて死ぬ」というすごいインパクトから27年。今回は「10年後の主人公は病院で意識不明」を先に明かし、同期が思い出を振り返りながら涙、というベタ路線に。うまい若手をそろえたが、社内の試練が陰湿で暗く、しんどい水曜日に向かない。現状は人事部、営業、広報などの話でゼネコン感ゼロ。忖度なしの土木女子と土木現場の広い戦いを見たかった。

フジテレビ木曜劇場「モトカレマニア」
フジテレビ木曜劇場「モトカレマニア」

◆「モトカレマニア」(フジテレビ、木曜10時)新木優子/高良健吾

★★☆☆☆

番組公式ページによると「イタカワMKMの“ざわざわ”ラブコメディー」。よく分からない感じがそのまま画面に。「MKM」は、元カレマニアの略。5年前に別れた彼氏が好きすぎて妄想ストーカーとなり、再会後もマニア回路で追いかけ回す不思議ちゃんの奮闘。自称「ウザい」ヒロインが妄想してキュンキュンするシーンが全体の50%、分身たちが脳内会議をするシーンが20%。あとは小手伸也とメンディーとガンバレルーヤよしこと田中みな実アナという謎の世界観。ウザキャラとウザ演出の渋滞で何の話か見失う。唯一のイケメン、高良健吾がキャラ不明のままビューネくんみたいでもったいない。視聴率も落ち、ずっと低迷中のこの枠が心配。

TBS金曜ドラマ「4分間のマリーゴールド」
TBS金曜ドラマ「4分間のマリーゴールド」

◆「4分間のマリーゴールド」(TBS、金曜10時)福士蒼汰/菜々緒/横浜流星

★★☆☆☆

他人の“死の運命”が脳内映像で見えてしまう救急救命士。あろうことか姉が1年後に死ぬ運命を見てしまい、運命を変える方法を探して日々の救命現場でもがく。原作は、多分そんな話だと冒頭で分かるのだが、ドラマ版は「救命士モノ」と「姉との禁断ラブストーリー」が交わらないまま支離滅裂に進み、ジャンル不明で視聴者が離れる結果に。菜々緒にカマトトキャラは似合わないし、そんな姉を見るたび、福士蒼汰が子供時代の淡い回想にふけって話が進まないのもしんどい。現状、主人公が救命現場では足手まとい、恋愛ではねっとりしたストーカーっぽくて戸惑う。大至急、主人公に行動を。2話は弟、横浜流星のサイドストーリーに救われた。

◆「俺の話は長い」(日本テレビ、土曜10時)生田斗真/安田顕/小池栄子/清原果耶

★★★★★

へ理屈パワーで実家に居座る31歳無職と、転がり込んできた姉一家の3カ月。期間限定の共同生活で人生がちょっと動きだすホームコメディー。30分2本立ての挑戦に脚本金子茂樹の会話劇が生き生きとはまり、すき焼きひとつでよくこれだけ人間性を開放できるものだと、生田斗真、小池栄子の仕上がりにげらげら笑う。学校に行きたくないめいっ子清原果耶と、ハローワークに行きたくないおじさん生田斗真のひとひねりある交流もみずみずしい。下町の節度に寅さんな味わい。各話にほろりとした余韻があるのもすてき。発言権が低い安田顕の人間力も含め、このまま舞台でも見たい。毎朝母親にコーヒーをいれる主人公。何かひとつでも毎日続けられる人は信頼できる。

TBS日曜劇場「グランメゾン東京」
TBS日曜劇場「グランメゾン東京」

◆「グランメゾン東京」(TBS、日曜9時)木村拓哉/鈴木京香/沢村一樹

★★★★☆

ある事件で2つ星から陥落した天才シェフの再起。令和最初のキムタクが、あえて「天才」「型破り」の得意分野をブラッシュアップした勝負がはまる。鈴木京香の「おいしい」の涙に、料理人の本能が動き始める一瞬に説得力があり、「俺が必ずあんたに星を取らせる」の手腕に興味が沸く。あせったり、しょんぼりしたり、反省したり。変わろうとしている天才の人間味に46歳木村拓哉がばっちりで、ベタなキムタクワールドも1周回って新しい。沢村一樹、及川光博、玉森裕太ら、登場人物の持ち味がきちんと物語を動かし、各地に散らばってしまった才能が再集結する序盤がドラゴンボールみたいでいい。料理の絵ヂカラ上等。私もこの店に行ってみたい。

◆「ニッポンノワール」(日本テレビ、日曜10時半)賀来賢人/広末涼子/井浦新

★★☆☆☆

女性刑事の死と、10億円強奪事件の黒幕を追うバイオレンス刑事の奮闘。記憶喪失、9歳遺児との捜査、幼少期の悪夢、警察の闇などあれこれ詰め込みすぎてよく分からなかった。主人公を筆頭に、容疑者であるすべての警察関係者がチーマー並みに血気盛ん。場面が変わるたびに秒でキレる、破壊する、つかみかかる、怒鳴る怒鳴る怒鳴る。うるさい暴力性ばかりで疲れる。と思ったら、雨に打たれる主人公が急に「勝手に夜が明けることはない」とかキメ顔でポエム。2話でちょっと物語らしくなり、おとなしくて賢い子役くんと賀来賢人の夜のおしゃべりはしみじみと良かった。「考察班」へのバズり狙い以外にも、こういう魅力作りも増量してもらえると助かる。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)