22年NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の発表会見を行った脚本家三谷幸喜氏
22年NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の発表会見を行った脚本家三谷幸喜氏

【先週の言葉】「オファーを受ける俳優さんたちに言いたいんですけど、もし自分が『やばいかな』『スネに傷持ってるかな』と思うかたは断ってください」

8日、22年NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(主演小栗旬)を発表した脚本家三谷幸喜氏の言葉。「いだてん」「麒麟がくる」と続くキャストの不祥事、降板、撮り直し、再編集などの事態を避けるため、これから出演依頼を受ける俳優たちに異例の呼び掛けを行った。この週は、出演者側からもさまざまな発言が飛び出しており、NHKも事前チェックに本腰を入れる段階なのではと感じる。

キャスティング段階での事前確認について、NHKの現状は「所属事務所を通し、さらに対応を検討していく必要がある」(放送総局長)、「具体策があったら教えてほしい」(「鎌倉殿の13人」制作統括清水拓哉氏)という感じ。今のところ打つ手がなさげな局に代わり、キャスティングに大きな影響力を持つ人気脚本家が先に動いた形だ。

NHK広報が「以上をもちまして」と会見を締めた後に「この場を借りてどうしても言いたかったことがある」とマイクをとっての発言だけに重い。「俳優さんは全員大好きだし、歴史上の人物も大好き。大好きな人たちをいちばんいい形でと思っている」と語り、冒頭の発言となった。

それでも受けてしまう人に「なんで受けるんだっ!」と力説して笑わせながらも、「断ってくださいと、切に願っております」。これからたった1人で台本を書く人の、願いと危機感がずっしりと感じられた。ヒットメーカーだから表明できる本音であり、職員側からも「三谷さんにしかできないメッセージの仕方で、その意味は重い」と受け止める声が聞かれた。

脚本家も大変だが、出演者も大変だ。先週は、「麒麟がくる」に出演している高橋克典、向井理が相次いで発言した。

22年NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の脚本を手掛ける三谷幸喜氏は、ホワイトボードを使って人物関係を説明する
22年NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の脚本を手掛ける三谷幸喜氏は、ホワイトボードを使って人物関係を説明する

信長の父、織田信秀役を演じている高橋は、撮り直しによって生じた過密スケジュールで年末に過労ダウンしていたことをイベントの場で明かした。「僕にとって初めての大河。緊張したし、準備をたくさんして現場に入ったので、撮り直しでエネルギーを使いました」。

前半で死ぬ役どころのため、出演シーンの撮影はすべて終わったというが、張り切って臨んだ初大河である。本来のOKシーンではなく、過労の中の撮り直しシーンが含まれたのはどれだけ悔しいかと思う。それでも「すっかり元気になった」「人生いろんなことがある」と切り替え、代役で濃姫を演じる川口春奈を「すごくいい」と絶賛する人柄に救われた。

足利義輝役で出演している向井理は、主演ドラマの会見で、今年の抱負について「健康第一で、不祥事を起こさないこと」と語った。「撮影に支障をきたす。僕だけじゃなく、作品にはたくさんの人が関わっている」。現場が被る負担を目の当たりにした人の実感だろう。主演ドラマに大河の撮り直しが重なりしんどかったはずだが、「不祥事だけは起こさないで」と突っ込む仲間由紀恵に「僕も一応被害者なんで」と和ませる余裕をみせていた。

作家、スタッフ、共演者、受信料を守るためにも、刑事事件にかかわる事案に関しては、1年間の長丁場に見合った厳格な依頼基準がそろそろほしい。出たい人は山ほどいる。どんなチェックでも受けますという人限定でしっかり手順を踏んでもらえばいいのではと、個人的には思う。【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)