朴訥な農民や頑固な職人役などで知られる俳優山谷初男(83)が、来月8日に東京・浅草の木馬亭で、歌としゃべりのコンサート「山谷初男が歌う 寺山修司は生きている!」(午後6時半開演)を開く。

 1953年(昭28)に劇団東芸の舞台「ホタルの歌」で俳優デビュー。64年には「ケチまるだし」で映画デビューした。

 秋田・角館出身を生かした東北弁の市井の人、善良な職人、すごみのある悪人、創世記の日活ロマンポルノ、蜷川幸雄演出の舞台と脇役一筋で活躍してきた。東京・新宿ゴールデン街の飲み友達で、映画「月はどっちに出ている」などの崔洋一監督ら仲間から「はっぽん」の愛称で親しまれている。実家のある角館には、94年から小劇場「はっぽん館」を開設している。

 詩人、劇作家として知られ、演劇実験室「天井桟敷」を主宰。83年に死去した寺山修司氏(享年47)とは、67年の天井桟敷の初公演「青森県の背むし男」を見た山谷が、感動して「裏方でもいいから」と出演を志願したことから縁が始まった。同年の「毛皮のマリー」で「醜女(しこめ)のマリー」という大役に抜擢された。

 今回のステージでは、74年に寺山氏が詩を書いて構成、レコード発売した「山谷初男の放浪詩集 新宿」から数曲を披露する。

 収録曲の1つ、「歌舞伎町の少年探偵団」は、寺山氏が影響を受けた書物の筆頭に挙げる江戸川乱歩の「少年探偵団」をモチーフにしている。またもう1曲の「日活ロマン・ポルノのヒロイン、ジプシー・ローズ嬢賛江」は、“日本のモンロー”と呼ばれ、67年に亡くなったジプシー・ローズに捧げる歌。数多くのピンク映画に出演し、日活ロマン・ポルノの草創期を支えた山谷にとって忘れられない歌だ。さらに、14年に亡くなった同い年のスターを「菅原文太を見にゆくブルース」も歌い上げる。

 山谷は、寺山氏について「演出はまったくうるさくなかった。ただ醜女のマリーは、せりふが難しいというか、文体が難しく覚えるのに大変だったな。天井桟敷で7本ほど舞台をこなして3年がたったころ、寺山さんから『そろそろうちに来ないか』と天井桟敷に誘われたけど、その頃は劇団俳優小劇場への義理があったから『小沢昭一が好きだから』って断りました」と、笑いながら振り返る。

 今回は講談の田辺鶴瑛、旭堂南鷹、田辺銀冶らも出演する。山谷は「講談との共演は初めての試みだけど、面白いし、楽しみにしています」と話している。