大物脚本家の誕生かもしれない。先月、「第34回フジテレビ ヤングシナリオ大賞」受賞会見を取材した。同賞はフジテレビの看板ドラマを支えてきた脚本家の登竜門として知られ、第1回大賞は坂元裕二氏(東京ラブストーリー)、第2回大賞は野島伸司氏(101回目のプロポーズ)を輩出している。現在、話題沸騰中の「silent」(木曜午後10時)の脚本を担当している生方美久氏(29)は昨年の大賞受賞者だ。
今年の大賞は兵庫県出身の市東さやかさん(30)が受賞した。現在は神戸市看護大の大学院2年生。2回目に書いたシナリオが、1535編の応募の中から頂点に立った。「この作品を書いて、どんどん選考が進んでいくのが怖かった。途中で誰か止めてくれないかなと思っていた。受賞の連絡もらったら、腹くくれたというか、絶対やってやるぞという気持ちになれた」と喜びつつも複雑な表情も浮かべていた。
今回の受賞で人生のシナリオを変更した。看護師から脚本家へ華麗なる転身を果たす。幼少期に見た連続ドラマ「ナースのお仕事」に影響を受けて看護師になり、大学院入学前の21年3月まで病院に務めていた。「看護師も好きな仕事。安定しているのは看護師だけど、仕事柄、自分は絶対いつか死ぬよな、と思うことがあった。ここで看護師の道を選んで死んだら後悔すると思った」。大学院の進学費用で資金がなかったため、独学で勉強した。「図書館にあるシナリオの書き方の本は全部読みました」。
受賞できなければ来春から再び看護師を続けながら、35歳までシナリオを書く予定だった。「受賞できなかったら就職しようと思っていた」。受賞が決まってから、就職活動先はすべて断った。来年4月から上京し、書き手1本の生活に専念する。「大学院を卒業したら、仕事はないですが、東京に行こうと思っていた。仕事という保険を捨ててやってみよう、と」。退路を断って活路を見いだす。
市東さんの人となりが十分面白いのに、次回作の構想を聞いてさらに興味が湧いた。「私が最近離婚したので、離婚を乗り越える話にしようかと」。2年ほどの家庭内別居を経て今年4月に離婚したという。プライベートを隠しがちな現代社会に逆行する告白に、記者も驚いた。配慮して「離婚って書いてもいいんですか」と聞いても、平然と市東さんは「書いてもいいです」と微動だにしなかった。「いろんな人の人生を見てきた。人は1人では生きていない。人との交流を書いていきたい」。次回作のテーマを“自分”に設定したのが大物たる由縁かもしれない。あとは、看護師生活を経てつかんだ人生観をシナリオに乗せるだけだ。
憧れの脚本家には、宮藤官九郎氏を挙げた。夢は広がる。「スクールにも通ったこともなく、専門的に学んだこともなく、それをカバーするほど作品も見てない。えたいのしれない存在に、賞をくださったフジテレビさんの器の大きさというか、チャレンジングなところに救われている。微力ではありますが、ぜひ恩返ししたい」と意気込んだ。
大賞受賞作「瑠璃も玻璃も照らせば光る」は27日午後1時45分から同局全国ネットで放送される。同作は17歳の女子高生を主人公に、今を生きる若者たちの葛藤をリアルに描いている。【高橋洋平】



