岸田文雄首相(22年6月25日撮影)
岸田文雄首相(22年6月25日撮影)

岸田文雄首相が主導した「守りのための攻めの奇襲」による内閣改造が終わり、ふたをあけてみればかなりの顔ぶれが変わる大規模な表紙替えとなった。今、国民の高い関心が注がれる、自民党国会議員と旧統一教会との関係を断とうと、関係が指摘された7人の閣僚を外したが、それでも接点のある新閣僚、副大臣、政務官がゾロゾロ。旧統一教会側と自民党議員との関係の根深さがあぶり出される皮肉な結果となり、改造直後はしばしば「ご祝儀相場」となるはずの支持率も上がらない。短期的に見れば、今回、首相によって強行された内閣改造は、失敗だったとの見方が大半だ。

一方で、今回行われた自民党役員人事と内閣改造には、長期的な観点で見た場合、いくつかの仕掛けが仕組まれている。ドラマでいえば「伏線」。将来、「この仕掛けはそういう意味だったのか」と思い返せるかもしれない、人間関係や政治的背景…。本筋のストーリー(内閣改造)とは別の「スピンオフ」的な観点で見ると、岸田首相のしたたかな戦略がにじんでくる。

たとえば…

自民党の茂木敏充幹事長(21年11月撮影)
自民党の茂木敏充幹事長(21年11月撮影)

<1>【ライバルにお目付け役?】自民党役員で留任した茂木敏充幹事長と、選対委員長から役職がスライドした遠藤利明総務会長は、1993年衆院選の初当選同期。スタートはともに自民党ではない。自民党から政権を奪い、一時非自民の連立政権を担った日本新党の出身(茂木氏は公認、遠藤氏は無所属で推薦を受けた)で、その後自民党に移った。茂木氏は実務能力の高さが評価される半面、人柄にはさまざまな評価もある。ただ今や派閥を率いる立場で「ポスト岸田」をねらう立場でもある。一方、遠藤氏は、選対委員長から党の最高幹部の位を示す「党3役」の一角の総務会長に昇格。その理由として、茂木氏の「お目付け役」的存在になるためではないかとの見方があるようだ。

前の総務会長は当選4回の福田達夫氏で、茂木氏より年も当選回数も下。だが、遠藤氏は同期で年も上。しかも、岸田氏に近く信頼が厚い。総務会は党の重要な意思決定機関で、選対委員長時代より発言力は増す。そんな側近を「ポスト岸田」を目指す茂木氏というライバルの近くに置けば、茂木氏も「福田氏の時よりやりにくいはず」(自民党関係者)との声を耳にした。

<2>【裏のテーマは…】経産相から、党の政策全般を仕切る政調会長に“異動”した萩生田光一氏。亡くなった安倍晋三元首相の側近で、今も多くの関係者が「将来の安倍派会長」最有力とみる。経産相を外れることには未練があったとされるが、一方、そのポストに起用されたのが、萩生田氏同様に安倍派会長を狙う1人、西村康稔氏。重鎮の後押しもあり野党時代の2009年自民党総裁選に出馬したこともある。菅政権では経済再生相として新型コロナ対応も兼ね、連日会見にも登場した。岸田政権ではしばらく無役だったが、新たな立場でチャンスがめぐってきた。安倍派の将来を占う2人のライバル同士が、党と政権、目立つ立場で活動するこの「行ってこい」人事。お互いに意識すればするほど「消耗戦」になるとの見方もある中、次期安倍派派閥会長レースという重大な「裏テーマ」を設定した首相の思惑は…。

<3>【囲い込み】昨年の自民党総裁選を岸田首相と戦った河野太郎氏がデジタル相、高市早苗氏が政調会長から経済安保担当相として再入閣した。閣僚となれば、時の政権の方針に沿い協力しなければならない。2人とも、首相による「一本釣り人事」といわれている。次の総裁選に出馬する可能性もある、自身にとっての2人のライバルを、結果が求められる閣僚に取り込むことで、良くも悪くも政治家としての評価を、外から見えやすくしたのではないか。自民党の幹部よりは、閣僚のほうが表面的な動きは多い。なかなか巧妙だ。

高市早苗経済安全保障担当相(22年1月撮影)
高市早苗経済安全保障担当相(22年1月撮影)

<4>【挙党態勢に見えて…】遠藤氏に代わり、「党4役」の選対委員長に就任した森山裕前国対委員長は、岸田首相と距離を置く二階俊博前幹事長の側近で「自民党内非主流派」の大物の1人。与野党にパイプを持つ森山氏の起用は、挙党態勢の一環でもある。一方で、選対委員長に課せられた今後の大きな仕事の1つが、衆院の選挙区割り改定「10増10減」の調整。対象議員の怒りや恨みも買いかねない中での調整役となる。難しさが伴う作業が予想され「ポストを得られたとはいっても、楽な仕事ではない」(関係者)。調整にたけた森山氏でないと御せない面もあると踏んでか、こういう局面ではベテランの手腕にすがったということかもしれない。

首相は今回の内閣改造と自民党役員人事で、自らの政権運営がうまく運ぶように、さまざまな仕掛けを行ったような気がしている。岸田改造内閣スピンオフ劇場。もちろん、本筋のドラマ(主演岸田首相)が最も見応えがなくてはならないが、本筋のストーリーでは、依然、旧統一教会との関係をめぐって混乱が続く、悪循環。ねらったスピンオフでの仕掛けがうまくはまるとも限らない。少なくとも、旧統一教会の問題をぬぐい去れていない岸田首相は、かなり前途多難だ。【中山知子】