「まさか、ここまで…」と、世界中を混乱に陥れている、トランプ米大統領による各国への関税措置。各国に10%のベースを置き、貿易赤字国にはさらに「上乗せ分」を追加し、しかもその数字をどう導いたか、本当にその計算でいいのかよく分からないというありさま。しかも発動から半日で「90日間の一時停止」を発表するなど、あまりにも自己チューな「トランプ関税劇場」に、世界中が振り回されている。
米国の同盟国であり、世界最大の対米投資国だから…と石破茂首相がいくら訴えても、24%の追加関税を課せられることになった日本。最終的には「石破首相によるトランプ氏への直談判」(関係者)が必要になるとみられる中、先陣を切って先方との交渉に臨む担当者に、赤沢亮正・経済再生担当相(64)が任命された。林芳正官房長官(64)とともに、関税問題に対応するため新設された「総合対策タスクフォース」で、共同議長を務める。
この人選を見た永田町関係者は「『困った時の赤沢さん』と、『困った時の林さん』なんだな」と感じたそうだ。
赤沢氏は、石破首相の隣の鳥取2区が選挙区で、長年行動をともにしてきた「再側近」で知られる。東大卒業後、旧運輸省に入省した元キャリア官僚。石破首相がかつて率いた「水月会」に所属し、自民党総裁選出馬が5度に及んだ首相を、不遇の時代から支えた。2005年の初当選から当選7回だが、初入閣は石破政権が初めてだ。
前出の関係者は「石破首相にとっての精神安定剤であり知恵袋。官邸にも『赤沢部屋』があるくらいで、何かにつけて首相は赤沢さんを頼っている。今回も、再側近に難しい交渉を任せた。だから『困った時の赤沢さん』」と指摘する。
今回の交渉役をめぐっては、第1次トランプ政権時、現在の赤沢氏と同じ経済再生相の立場で、日米貿易交渉に臨んだ茂木敏充元幹事長(69)の名前も上がっていた。当時のトランプ氏に「タフネゴシエーター(手ごわい交渉人)」と言わしめたことは、昨年の自民党総裁選でも話題になった。その時は、単なるアピールポイントにしか感じなかったが、日本が大ピンチに陥っている局面になるや、野党からも「茂木氏待望論」が出るほどだった。
茂木氏は外相として外交の舞台を経験し、トランプ氏との面識もある。「英語が堪能で実務能力が高く、何より場慣れしている」(自民党関係者)との声も聞いた。そうであっても、昨年戦った「政敵」で今は「非主流派」ともいえる茂木氏より、石破首相は気心知れた「困った時の赤沢さん」を起用する判断になった。
茂木氏同様、石破首相が昨年の総裁選で戦った1人の林氏は、もともと「困った時の林さん」的な立場の政治家。不祥事で辞任した閣僚のピンチヒッターでリリーフ登板したケースは多く、昨年の総裁選でも、自身の誕生日をもじった緊急通報「119番」のニックネームをアピール。石破政権は今後、この「困った時の2人」を中心に、トランプ関税に対応していくことになる。
石破首相はそもそも、トランプ氏との面会のタイミングがなかなか合わない状況にあった。首相より先に私邸で面会したのが、安倍晋三元首相の妻昭恵さんだったことも話題になった。石破首相は今年1月のトランプ氏の大統領就任後、早いタイミングで首脳会談にこぎつけたまではよかったけれど、その時に求めた「関税措置からの日本の除外」も受け入れられず、トランプ氏は公の場でことあるごとに、かつて近い関係にあった安倍氏の名前を出して、石破首相側にプレッシャーをかけている。
ただ、努力すれば安倍氏のようにトランプ氏に近づけるかといえばそうでもないようで、「第1次政権の時よりも、より持論を強硬に押しつけてくる今のトランプ氏と付き合うのは、至難の業ではないか」という悲観的な声も漏れ聞いた。
そんな局面で、「トランプの壁」と向き合うことになった石破首相が頼る「困った時の赤沢さん」。赤沢氏の交渉相手の1人として、がぜん注目を集め始めたベッセント財務長官も、トランプ氏の重要側近と伝えられる。赤沢氏は11日の記者会見で、交渉役として臨む心境を問われ「自分の身体の中で、胃が1センチくらいせり上がったような感じは、正直ある。身体が反応しているので間違いない」とその重責を口にした。国と国のメンツがかかった交渉は、「側近VS側近」のやりとりも加わり新たに動きだすことになる。【中山知子】(ニッカンスポーツ・コム/社会コラム「取材備忘録」)


