卓球の東京五輪テスト大会となるW杯団体戦が11月6~10日、本番と同じ舞台、東京体育館(渋谷区)で行われる。五輪競技の日本代表争いの中でも、激しさを極める卓球。来年1月発表の世界ランキングで日本人上位2人が男女ともにシングルス代表となる。12月のグランドファイナル(中国・鄭州)をもって終了する選考レースは2カ月を切り、重圧が増す。団体戦要員の3人目は日本協会の強化本部推薦で決まるため、ランク下位選手にも可能性は残されている。【取材・構成=三須一紀】

今年の卓球世界選手権日本代表
今年の卓球世界選手権日本代表

★男子

世界ランキング5位の張本智和(16=木下グループ)はシングルス代表を、ほぼ手中に収めている。グランドファイナルを待たずして、当確が出る可能性もある。張本も「五輪代表は、ほぼ大丈夫だと思っている。今は五輪でベスト4シードを取れるよう、ランクを上げることを意識している」と話している。

激しい2枠目争いを、水谷隼(30=木下グループ)、丹羽孝希(25=スヴェンソン)が繰り広げる。現在の世界ランキングは11位丹羽、13位水谷となっているが、来年1月発表分に反映される今年1月からのポイントは、水谷が8425点で、丹羽の7960点を465点リードしている。しかし、この点差はワールドツアー1大会でひっくり返る僅差だ。

五輪4大会連続出場を目指す水谷。16年リオデジャネイロ五輪で日本卓球史上初となる五輪シングルスのメダリスト(銅)となった男ならではのメンタルで今、五輪選考レースを戦っている。「東京五輪に出場することではなく、皆さんはメダル獲得を求めている。今の自分の力でシングルスに出てもメダルは取れない」と語る。その上で、来年1月の結果だけを追い求めるのではなく「五輪でメダルを取れる力を今、つけることを意識している。その結果、シングルスに出られなかったとしても、団体戦や混合で五輪に出られるチャンスはあると思っているので、『東京五輪』に照準を合わせている」と言い切った。

多い時は、毎週のようにワールドツアーを転戦し、そこで得られるポイントに一喜一憂しがちな選考レースだが、日本卓球界の新たな歴史を切り開いてきた男は達観した境地にいた。

一方、丹羽は苦戦を強いられている。9月、ポイントを稼ぐため、南米パラグアイで行われた「チャレンジプラス」という通常のワールドツアーより1ランク下の大会に出場し、優勝ポイントを狙ったが、1回戦で敗退した。

10月に入り、スウェーデン、ドイツオープン(OP)も16強止まり。思うような加算ができなかった。グランドファイナル出場資格を決めるポイントでは19位(10月14日時点)。上位16人の出場枠に入っておらず、危機的状況だ。

ただ丹羽は、水谷が出られない男子W杯(11月29日開幕=中国・成都)に出場でき、ここでの挽回が大きな鍵を握りそうだ。

<吉村は団体戦要員へアピール> 上位3人には届いていない選手も、団体戦要員への推薦を信じて、日々戦っている。16年リオ五輪男子団体銀メダリストの吉村真晴(26=名古屋ダイハツ、写真)は4390点と3位に大きく離されているが、W杯団体戦の代表に選ばれた。東京五輪の団体戦はダブルスから始まる。吉村は今年の世界選手権個人戦で石川佳純と組み、混合ダブルスで銀メダルを獲得するなどダブルスの評価は高い。「もしかしたら五輪につながるかもしれない。最後のビッグアピールだと思ってプレーしたい」と意気込んでいる。


★女子

女子では世界ランキング7位の伊藤美誠(19=スターツ)が頭ひとつ抜け出した。今月のスウェーデン、ドイツOPでともに準優勝。特にスウェーデンOP準決勝では同世代の強敵、同6位の孫穎莎(中国)を4-3で撃破。孫は4月の世界選手権女子ダブルス決勝で敗れた因縁の相手でもあった。

昨年のスウェーデンOPは世界最強中国の3選手に、準々決勝から3連勝し、優勝した。「昨年はノリで優勝したけど、今年は実力で勝ち取った2位」と伊藤は言う。プレースタイルを研究される中でも、真っ向勝負で中国選手に勝てる手応えをつかんでいる。

五輪選考レースへの向き合い方は「楽しむ」だ。あえて細かいポイントは意識しない。「代表争いは意識していない。1試合ずつ実力を出し切って楽しめば、勝手にポイントがついてくると思ってやっている。各大会、1位になったら何ポイントかも分からない」と笑った。

女子の2、3位争いは男子より激しい。伊藤が出場できなかった10月20日閉幕の女子W杯(中国・成都)で石川佳純(26=全農)が2回戦敗退(8強)、平野美宇(19=日本生命)が初戦敗退(16強)となり、3位石川と2位平野の差は、わずか65点に縮まった。

平野は「現実味を帯びてきた。最近、五輪レースのことを、常に忘れることが出来ない」と重圧をひしひしと感じている。せめてもの息抜きはランニングマシンでのジョギング。自他共に認めるアイドル好きは「『IZ*ONE』か『乃木坂46』を聴きながら40分走ると、気分も体も結構スッキリする」という。

石川は過去2大会、五輪出場経験があるものの、プレッシャーは拭えない。「やっぱり何回経験しても無理なんじゃないでしょうか。一生懸命やっていれば緊張するし、勝ちたいと思うのが試合だと思う」。

食事中、入浴中も「24時間ついてくる」と、日常生活にも付きまとう。五輪選考レースは「そういうものだと思う」と話す。だが、この苦しみが五輪の糧になってきた。

石川 いつでも苦しい。リオもロンドンも本当に苦しくて、選考レースを楽しいと思ったことは1回もない。この苦しい競争も、東京オリンピックに生きてくる。リオもロンドンも選考レースの苦しさを全部出さないと損という気持ちで、「ここでやらないともったいないわ!」という思いで戦えた。今回も、ものすごいプレッシャー。東京五輪に出られたら、これが生きてくる。残り2カ月、そう思って戦い抜きたい。

卓球選考レースの厳しさが、石川の言葉に集約されていた。


<有効期限は1年間>

◆世界ランキングの決め方 各選手、上位8大会の合計ポイントで決め、毎月更新される。五輪も含め、各大会のポイント有効期限は1年間だが、例外もある。世界選手権(個人、団体それぞれ)、大陸選手権、W杯、W杯団体、大陸杯、ワールドツアー・グランドファイナルで獲得したポイントは次大会まで失効しない。そのため今回、日本代表の男女とも、18年世界選手権団体のポイントが加算されている。今年から新設されたT2ダイヤモンドは8大会に加えて、純粋加算できる大会。男女16人ずつしか出られないため、出場すれば400点が無条件で加算される。9月の第2回大会は急きょ、来年度に延期されたが、11月に第3回がシンガポールで予定されている。


◆今後の展望 男女とも2位までは無条件で来年1月のランキング上位が選出されるが、問題は団体戦要員の3人目だ。協会関係者の中でもさまざまな声がある。「3人目もランクが重視されるべきだ」「考慮するにしても4番目まで」「あまりに下位の選手を選んだら周囲が納得しない」。ある協会関係者は「チームランキング」も重要な要素だという。団体戦で金メダルを狙う日本。王者中国と決勝まで対戦を避けたいところ。そのためには来年7月の同ランクで2位につけている必要がある。

男子は来年1月発表分のポイントで現在3位の丹羽と、4位選手とでは3000点以上離れており、現時点で4位以下の選手を団体戦要員に選ぶ可能性は低いと言える。残り2カ月、4位以下の選手はワールドツアーで優勝し、グランドファイナル出場権を勝ち取って、さらに同大会で上位に食い込むなど、爆発的な活躍がないと、3人目に滑り込むことは難しい状況だ。