新型コロナウイルスの影響で拠点のドイツから愛馬を残して日本に戻り、3カ月以上が経過しました。普段は2週間ほどで欧州に帰りますし、1年を通じても6対4の割合で、欧州に長くいます。3月は米国のフロリダで行われた大会に出場し、代表選考の途中だった東京オリンピック(五輪)に向けて上り調子でした。いつも日本滞在時は兵庫県で老人ホームの経営に専念しているので、こちらで馬に乗れません。ずっと離れてしまい「私ってこんなに馬が好きだったんだ」と感じる毎日です。

東京五輪の延期が決まり、まずは率直に「悔しいな」と思いました。昨年12月に五輪に向けた相棒として、15歳だった「スゥィンデンウインド」を購入しました。馬場馬術の世界ではベテランの域。馬の寿命が大体25年としたら、人より4倍ぐらい速く年を取ります。人間も4歳違うとランニングしただけで、体の反応が変わります。1年延期の影響はとても大きいです。

同時に延期は当然とも思います。私は「アスリート」である前に「1人の人間」という気持ちが強いです。老人ホームの仕事で命を預かっているからこそ、健康で過ごせる日々を守りたい思いがあります。東京五輪を絶対に黒歴史にしてはいけない。国民が自粛だったり、努力してきたことを、五輪がパーにする可能性もあります。生活の安全を担保しないといけません。

初出場だったリオ五輪後の4年間は、つらいことの方が多かったです。リオで一緒に戦い、18年のジャカルタ・アジア大会で団体金メダルに貢献してくれた愛馬「トゥッツ」の死は、簡単に受け入れられませんでした。余生を過ごしていた米国で、昨年4月に亡くなりました。目の手術のためにトレーラーに乗せた時に急に倒れ、起き上がれず、心臓が止まってしまいました。面倒は米国在住の信頼できる友人が見てくださっていました。前日まで放牧で走り回っていたそうです。

2年前の4月には東京五輪に向け買った馬が、1カ月で亡くなってしまいました。目標を見失い、金銭的にもどん底。正直なところ五輪は全く見えなくなりました。支えてくれたのはスポンサーさん、仕事の従業員、取引先の皆さん。「頑張ってよ」と応援してくれて続けられています。

選手として、経営者として-。その2本がそろっているから、私があると思っています。今は五輪のことを頭に描けないのが正直なところですが、日々を大切に過ごしていきたいです。(310人目)