【パリ=木下淳】21年東京五輪金メダルの阿部詩(24=パーク24)が、まさかの2回戦敗退で2連覇の夢がついえた。世界ランキング1位の第1シード、ケルディヨロワ(ウズベキスタン)に逆転の一本負け。泣き腫らした目で「自分が弱い」と振り返った。準々決勝に進めず、メダルなし。19年11月のグランドスラム(GS)大阪大会以来、5年ぶりの敗戦となった。国際大会で外国人相手に一本負けを喫するのは人生初。非情にも五輪本番で起きた。
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負けた。詩が。会場に、慟哭(どうこく)が響き渡った。歩けない。立ち上がれない。客席上段にも届いた痛恨の叫び声が、悲劇を増幅させる。2回戦。世界ランク1位のケルディヨロワを相手に2分14秒、まず内股で技ありを奪ったが「取り急いでしまった」。3分4秒、組み手争いで後退した隙を突かれ、谷落としで逆転の一本負け。信じられない。視線が泳ぎ、頭を抱え、畳を下りる前に泣いた。平野幸秀コーチの肩を借り退場する際には「ウタ」コールが自然発生した。
5年前まで時を戻さなければならない敗戦も、当時は延長戦の技あり。一本負けは国際大会で初だった。直後は「取材を受けられる状態ではない」と説明があり、過呼吸の状態に陥っていたという。男子66キロ級の兄一二三が初戦の2回戦を迎える前に、日本史上初の「きょうだい2連覇」が消滅した。敗者復活戦にも回れずメダルなしとなった。
世界中に打電され、日本でも「詩ちゃん」がトレンド入りした衝撃の敗戦から約4時間後、取材に対応した。泣き腫らした目の周りは真っ赤。付き人に支えられ、フラフラしながら歩いており、憔悴(しょうすい)し切っていた。それでも気丈に「本当に悔しいの一言。五輪という舞台で勝てなかった自分が弱い」と第一声。「緊張感、絶対に勝ちたい気持ちがすごく強くて…。この五輪に、いろいろな思いを持って全てを懸けて、この1日のためにやってきた。負けた瞬間、冷静に自分を保つことができなかった」。両親と長兄からは「お疲れさま」とねぎらわれたが、一二三とは決勝の後。「しっかり応援したい」と観客席に回った。
なぜ序盤から大一番になったのか。先月23日に五輪ランキングが確定。昨年10月の国際大会を欠場した影響で詩は9位となり、五輪で上位8人のシードに入れず、世界ランク1位と早々に対戦した。初戦こそ開始57秒で圧勝し、最有力の2連覇へ好発進したかに見えた。昨年の世界選手権でも2年連続4度目の優勝を遂げた。決勝で一本勝ちしていた相手だった。「どこに入っても、結局は勝たないと金メダルはない」。無敗でパリの畳に立ち、ノーシードも意に介していなかったが、落とし穴になった。
東京五輪の後、両肩の手術を受け「怖さがなくなった。不安より、さらに良くなる楽しみしかない」と明るかった。五輪の魔物には遭遇したものの、初の有観客は華やかだった。「素晴らしい舞台。誰もが経験できないと、あらためて。ここで、しっかり金メダルを取れるような強さを身につけたい」。最後に出た前向きな言葉が、救いだった。



