五輪取材歴30年の荻島弘一(55)がリオからコラム「Oh! Olympic」をお届けします。

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 ブラジルに来て10日がたった。五輪競技の半分が行われるリオデジャネイロ西部のバーラ地区は新しく開発された場所で、治安はそれほど悪く感じない。海岸沿いや片道4車線ある道路の両側に高層マンションが立ち並び、大型スーパーが軒を連ねる。古くからある街の中心地とは、明らかにイメージは異なる。

 準備の遅れが指摘されてきた大会も、いよいよ開幕を迎える。しかし、今でも「本当に大丈夫か」と思うことは多い。記者村のテレビは、アンテナが「入力」でなく「出力」につながっていた。映るわけがない。日本なら配線後に確認するのが常識だと思うが、それをしない。もっとも、ブラジル通信員のエリーザ大塚は「ブラジルは、こんなものよ」と事もなげに言う。「何かが起きてから、対応する」のが普通なのだ。

 サッカー王国ブラジルでは、全国選手権が佳境を迎えている。五輪中は、リオのホーム戦はない。五輪警備で、サッカー警備の人員を確保できないからだ。驚くのは、これが決まったのが今季のスケジュールが出た後の数カ月前だということ。日本は、4年後の東京五輪期間中のプロ野球公式戦中断が確認されている。さすがに「走ってから考える」ブラジルだと思う。

 それぞれの国で、文化や考え方は違う。日本人の感覚では「?」と思うことでも、その国の人にとっては常識なことも多い。東京五輪を迎える時に、果たして日本の文化や習慣が外国から来た選手や報道陣、観戦客にどう映るか。日本人がいいと思っても、外国人から見たら「?」となることがあるのかもしれない。

 柔道の取材でバーラ地区の練習場にタクシーで向かった。45を指すメーターを見て50レアル(約1600円)を出すと、運転手から20レアルを渡された。「これは多い」と返そうとすると「道を間違えて遠回りになったから、これでいい」と言うのだ。「ボラれる」と言われることの多いブラジルのタクシーだけに、こちらの緊張もやわらぎ、温かい気持ちになった。

 どんなに準備をし、完璧に五輪を迎えても、最後は日本人1人1人の気持ち。違う文化や価値観を持った外国人を迎える気持ちだ。東京では選手村や競技場などの施設が、リオとは比べものにならない状態で用意されるはず。それでも、大切なのは日本人の心。入れ物や外観だけでなく、中身がなければ、本当に「おもてなし」とは言えない。【荻島弘一】