大学指揮官がNBAのスター軍団の監督!? バスケットボール男子の米国を率いるのが3連覇を狙う「コーチK」こと、マイク・シャシェフスキー監督(69)。現在も米デューク大を指揮しており、プロチームの指導経験はない。それでもNBA選手で固めた「ドリームチーム」の心をがっちり掌握し、一時は低迷していた米国を復活させた。その手腕に迫った。

 ドリームチームにかつての輝きを取り戻したのが、NBAチームからの就任オファーを5回も断ったシャシェフスキー監督。強豪デューク大を5度の全米制覇に導き、NCAA(全米大学体育協会)1部で唯一、1000勝をマークした大学界のカリスマ指揮官だ。

 92年バルセロナ五輪で優勝した初代ドリームチームのレイトナー(元ヒート)ら名選手たちを育てた。今大会にも教え子のアービング(キャバリアーズ)が参加。年俸数十億円を稼ぐNBA選手たちからも一目置かれるのは、その指導姿勢による。陸軍士官学校出身らしく規律を重んじ、スターたちにもチームワークを要求する。08年北京、12年ロンドンを制し、リオで狙うは3連覇。リスペクトを込めて「コーチK」とイニシャルで呼ばれている。

 05年に就任してからの通算成績は、五輪とW杯(旧世界選手権)で48勝1敗。だが就任当初のチームはかつての輝きが失われていた。04年アテネ五輪では準決勝でアルゼンチンに敗れて銅。コーチKが指揮した06年世界選手権でも準決勝でギリシャに敗れて3位。だが「敗北は勝利以上のものを教えてくれる。世界はバスケを学んでいる」と改革を進めた。代表候補を競わせ、大会登録選手を選考するシステムを導入した。相手国を知るために世界中へスカウトを派遣。国際ルールに慣れるために国際審判のジャッジも研究した。そして選手たちには好き勝手な振る舞いを許さず、チーム内の役割を明確化した。

 米国のバスケットボール事情に詳しい早大スポーツ科学学術院教授で元日本代表の倉石平氏は、コーチKの手腕についてこう説明する。「デューク大の選手はあまりアーリーエントリー(NBAドラフトにかかる意思の宣言)をしないし、入れ墨なども少ない。人間形成を考え、厳粛にアマチュアスポーツを貫いているからだろう。チームケミストリー(調和)を重要視する指導で、5人を合わせて5ではなく、10や20にすることを常に考えている。NBA選手に対しても言う通りにしないとどんどん外していくし、そのぐらいの厳しさを持っているからこそリスペクトされる」。

 米国は17日の準々決勝ではアルゼンチンを下し、順当に4強入りした。コーチKは「1次リーグ最後の3試合は有益だった。強くなるにはタフな試合をするのが一番だからね。我々は進化している」と自信たっぷり。3連覇を置きみやげに今大会限りで勇退する見通しだ。

 ◆マイク・シャシェフスキー(Mike Krzyzewski)1947年2月13日、米イリノイ州シカゴ生まれ。学生時代は陸軍士官学校でガードとしてプレー。卒業後の74年にインディアナ大学で名将ボブ・ナイトの補佐を務めた。75年に陸軍士官学校の監督に就任。80年からデューク大を率い、5度全米制覇。05年から米国代表の指揮官となり、08年北京、12年ロンドンと五輪を連覇した。大学チームの指揮官ながら年俸は1000万ドル(約10億円)を稼ぐ。