安倍晋三前首相(66)が日刊スポーツの単独インタビューに応じた。2回目は、東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの招致に成功した13年招致演説や、世界中に東京大会を印象づけた16年「安倍マリオ」を振り返る。10歳の時、64年東京五輪で見た五輪の原風景にも触れた。【聞き手=平山連、三須一紀、近藤由美子】※全3回、近日中に下も掲載予定です。

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-13年9月7日、20年の開催都市が決まるブエノスアイレスでの国際オリンピック委員会(IOC)総会。安倍首相の演説などで招致を勝ち取った。その中で東京電力福島第1原発事故について「アンダーコントロール」と説明し話題になった

安倍氏 あの時、G20サミットがロシアのサンクトペテルブルクで行われた。その前に(招致演説の)スピーチ原稿ができていて、英語で練習をしていた。サンクトペテルブルクに行った段階でブエノスアイレスにおいて、IOC委員が原発事故の影響で日本で開催できるかを心配しているとのことだった。日本の首相として安心できることを強調してほしいとのことでスピーチを書き直した。飛行機の中で推敲(すいこう)しながら英語に訳し、練習をやり直した。

-「アンダーコントロール」が招致成功に影響したか

安倍氏 状況把握して我々の管理下にあったのは事実です。さまざまな放射性物質がゼロになることはもちろんない。しかし、東京五輪を開催する上で『影響はない』と明確にしなければならなかった。原発、放射性物質の説明は非常にデリケートで、科学的な説明で必ずしも安心が得られるとは限らない。丁寧に説明して回る中で日本の総理として保証し、理解いただいた結果、開催が決まったと思う。汚染水の問題は今も残る。処理の仕方について経産大臣が苦労しながら、漁協の皆さんと話し合いを進めていると承知している。

-16年リオデジャネイロ五輪閉会式であった東京への引き継ぎ式では世界を驚かせる「安倍マリオ」を披露した。組織委の森喜朗会長から提案を受けたと聞く

安倍氏 正直、森会長から最初に言われた時は嫌だと思いました(笑い)。そもそもマリオの格好を総理大臣がやっていいの? と。(五輪は)なるべく政治色をなくそうとしている。リオに行くにも20時間以上かかりますから。しかし、私は森総理の官房副長官だったので弟子でもある。森会長から『長く総理をやって国際的にも認知されている君がやるしかない』と言われ『やります』となった。

-日本でも好意的に捉えられた

安倍氏 こういう格好をしたらまた、いろいろなところでちゃかされるのだろうと思った(笑い)。しかし、企画としてはよくできてた。会場で登場したら思いのほか、ものすごい大きな拍手があった。その後、国際会議に出たらさまざまな首脳から見たよと。当時、世界銀行総裁から『うちの娘が見ていて、あれはすばらしいと。安倍さんのサインをもらってくれと言われた』と、サイン書いたことがあった。

-土管から登場する前はどのような気分だったか

安倍氏 日本側はきっちり時間通りにやるけど(式典)全体の流れがそもそも遅れていた。土管の中で10分以上待った(笑い)。

-64年東京五輪は10歳で迎えた

安倍氏 航空自衛隊が五輪を空に描いたのを当時、兄と2人で見た。東京の自宅2階から出た屋根の上で。今でも覚えている。大変感激した。それと日本選手が世界の選手と競い合う姿が誇らしかった。

-他に印象深かったことは

安倍氏 聖火が(成蹊)小学校があった武蔵野市の五日市街道沿いを走った。日の丸の小旗を振りながら迎えたのを覚えている。テレビで重量挙げの三宅(義信)が金メダル取った。あの時学校にある、ほうきやモップを持って、ジャークとかスナッチとかをやっていたことを思い出す。東洋の魔女とか、みんな見ていた。(つづく)

※次回は安倍前首相のアーチェリー愛

◆リオ五輪閉会式での引き継ぎ式 歌手椎名林檎、振り付け家のMIKIKO氏、クリエーティブディレクター佐々木宏氏らが手がけた8分間の演目で五輪旗をリオから東京へと引き継ぐことが目的。映像では車で国会を出た安倍首相がゲームキャラクターのスーパーマリオに変身し、日本から見てちょうど地球の真裏あたりにあるリオへ、土管を掘り移動するという内容が流された。映像の中でマリオがリオに着いたと同時に、マラカナン競技場に実際に設置された土管から「安倍マリオ」が登場するという粋な演出だった。(肩書は当時)

◆東京五輪の招致決定 13年9月7日、ブエノスアイレスで行われたIOC総会で、ジャック・ロゲ会長が「TOKYO」のカードを出し、決定した。ライバルはマドリードとイスタンブール。ともに初開催な点が有利とされていた。イスタンブールは初のイスラム圏開催や、アジアと欧州が交差する国際都市をアピール。マドリードは既存会場を利用する低コストの大会運営を売りにした。東京は猪瀬直樹都知事が「45億ドルの大会開催準備金がある」などと述べ、安定した財政が評価された。福島第1原発事故による放射能汚染も懸念されていたが、安倍首相のスピーチでその懸念を払拭(ふっしょく)し、招致成功の一因となった。第1回投票でマドリードが落選し、第2回投票で東京が勝利した。(肩書は当時)

◆安倍晋三(あべ・しんぞう)1954年(昭29)9月21日、東京都生まれ。成蹊大法学部政治学科卒業。38歳で衆議院議員初当選。03年に自民党幹事長となり、05年第3次小泉改造内閣で内閣官房長官として初入閣。06年9月に戦後最年少の52歳で第90代首相になったが、翌年に辞任。12年12月に再就任し、任期途中の今年9月末に辞任。第2次政権発足後からの連続在任期間は2822日となり、佐藤栄作元首相(2798日)を抜き歴代1位。第1次政権を含めた通算在任日数も3188日で憲政史上最長。